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ファンタスティック・プラネットのNMのレビュー・感想・評価

4.9
人間はどこから来て、地球はどうやってできたのか。観る度に何かしら新たな示唆がある。

鮮烈なオープニング。どういう状況なのか観客はさっそく推理や想像を巡らせる。何だか随分前にどうも見覚えが、身に覚えがある。私たちも子供のときこんな風に何かしら小さい生き物に興味を持ち、散々ちょっかいを出してみたことがあるはず。
人間を拾ったティバの「ちゃんと世話するから」といった台詞や、派手な服を着せ芸を仕込む様子は、我々がペットにする行為そのもの。
我が身を振り返りどうも後ろめたいような居心地の悪さを感じる。

最新の滑らかなアニメーションではなくパタパタしたコマ送りのような動きと、不気味なBGMが、じわじわと静かな恐怖を煽る。セリフも最小限で、何のなのか分からない装置や生命などが登場し、その都度想像力をフル回転することになる。何だか分からないもの、というのは無条件に怖い。
といってもラストも含めてただ暗いだけの作品ではない。希望もあるのでどんよりのままでは終わらない。

ドラーグ人が巨大なのかと思ったが、人間が髪の毛だけで持ち上げられても平気な様子からすると、人間の方もある程度小さいのかも知れない。

ドラーグ人は、瞑想すると目から瞳がなくなる。眠るときもそうなるので、まぶたを閉じている状態に近いものだろう。死んだ時にもそうなるので、瞳孔が開くのとも近い意味のようだ。
魂を遠くまで馳せている。その遠くがどこなのかはラストで判明する。
瞑想が深まると、体の輪郭が溶け境界がなくなったり自在に変形する様子は、比喩として視覚的にとても分かりやすい。
ある程度成長したドラーグの子どもは、ある時期に集まって瞑想を始める。まるで初聖体のようだ。「認識への第一歩」だという。その子が自分という存在を認識し始めるのか、それとも別の意味なのか。

ドラーグ人は、人間を高等人種と野蛮人種に分けており、後者は繁殖が早いという。人間とドラーグ人は時間の進み方が違うらしいので、ドラーグ人と比べれば、という意味かも知れない。
人間でいう15年のうち、イガムでは季節が3つあるらしい。といっても、そのうちの一つクリスタル期のように、大きくライフスタイルの変更を要するような季節変化ではない様子に見える。
そして「人間でいうと◯年」とはどういうことか。よく犬などに人間で言うと何歳、と使うときはあるが、それとは意味が違うようだ。同じ惑星にいながら時間の速度が違うとすれば不思議。

途中でシン知事は急に、人間は有害ではないかも、と言い出すがなぜそう考えたのかは描かれていない。ドラーグが殺された直後にそう思い至ったのはなぜだろう。

ドラーグ人の持つ証拠フィルムには、文明の痕跡がある。ということは何らかの理由で、人間は絶滅に近い状態に陥ったと想像できる。ドラーグ人の会話からして、彼らが大量虐殺を行ったせいかも知れない。
大量虐殺も、人類が実際に度々行ったことであり、どうも耳が痛い。

人間たちは、夜中、何かの儀式に出かけている。そして聖体拝領のように小さくて丸い何かを食べる。体が発光する。その後はカップルを作り生殖するらしい。見上げると満月だが、毎満月の夜にあるのか、もっと頻繁に行っているのかは不明。

食虫植物に似ているが捉えた生物を食べずにただ殺して笑うだけの生物や、人間を取り囲んで服を編んでくれる生物など、生命維持には直接関係ないことを行う生物が多い。

ナウシカにも影響を与えた作品らしいが、一番気になったのは魔術師の被り物がオウムのようであること。頭にオウムを乗せているようにしか見えない。

やがて人間掃討が始まり、バルサンやアリの巣コロリ的なものを散布される。これも身に覚えがあることなのでバツが悪い気分になる。しかしやらない訳にはいかないし、と誰に責められたわけでもなく勝手に心の中で言い訳してしまう。ドラーグが言う、やつらは不潔で繁殖力が強い、とは、我々がいつも害虫害獣に対してよく言う言葉。

人間が動き回る様子を、黒いシルエットで描くのは明らかに蟻を意識しているように見える。

最後の「ドラーグ人の秘密が分かった、……によって生命エネルギーを得ていたのだ」という説明はさっぱり分からなくてとても楽しい。
とにかくそこを狙えば為す術がないとことは分かった。

字幕で気になる箇所があった。すごいをスゴイと表記している。なぜなのかと思えば、テールとはフランス語で、ものすごいという意味なので、それを意識しての表記かと思われる。テールにはもう一つの意味がある。
始め、惑星イガムの衛星は「野性の惑星」一つであることが語られる。それがラストでは大きく変化する。
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