平野レミゼラブル

兵馬俑の城の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

兵馬俑の城(2021年製作の映画)
3.6
【砕けぬ愛と再定義する自分】
アニメを中心とした知られざる中国映画の公開イベントである「電影祭」で昨年公開された3D冒険ファンタジーアニメ。
電影祭自体は都市部で各1館、上映期間が1日~1週間程度と小規模だったんですが、好評を博したことで今年に入ってから何作か吹替版も製作されて全国公開されています。そして、先月の『雄獅少年/ライオン少年』に引き続き、本作も吹替版で遂に全国公開!めでたい!!来月は『マスターオブスキル-For the GLORY』が超豪華としか言いようがない声優陣で公開ですぜ!!

本作は世界八代奇景の一つである兵馬俑を題材とした作品でして、地下奥深くに眠っていた兵馬俑は実は生きていて都を作っていた!?という発想から生まれた冒険バトルファンタジーとなっています。
相変わらずの超発展した美麗3DCGと抜群のカメラワークから成るアクションが楽しく、またその中で描かれるラブストーリーも良い塩梅。地下世界とはいえピクサーの『ラーヤと龍の王国』や『ストレンジ・ワールド』を思わせる幻想的な風景や、地吼(ディーホウ)と呼ばれる凶暴だけどどこか可愛らしい雰囲気の幻獣が入り乱れる世界観は色彩豊かで楽しいです。
兵馬俑達は度重なる地吼の襲撃から都を守るために戦っている…という設定。

もふもふもちもちとした感じに血の通った生物感のある地吼に対して、兵馬俑側はちゃんと石のような質感の肌なのがいいですね。作中で唯一の人間であるヒロインのシーユイ(CV寿美菜子)と比べると、髪の毛辺りがさらさらしておらず束になってくっついてるだけの無機質さが顕著です。
よく見るとところどころ古傷めいて剥がれているディテールも中々細かい。この世界の医者は修復師であり、施工めいて泥を塗りたくって“治療”としているのがユニーク。

兵馬俑にとっての死=破壊であり、強烈な打撃を食らったり、地面に思いっきり叩きつけられたその瞬間に物言わぬ石像と化して無惨に砕け散る無常感とか良いんですよね。地吼との合戦描写とか、このある意味リアルよりも無慈悲な“死”の表現で中々にシビアな趣がありましたし。
まあ、ちょっとした高低差見るだけで「大丈夫?割れない?」という最早スペランカーに対する心配みたいなのもしちゃうんですけど。

こうした危険で無情な戦の実態や、雑役兵として生まれた者は一生雑役兵という定められた運命論みたいなものを提示した上で、主人公の雑役兵であるモウ(CV:福山潤)は近衛兵になる試練として凶暴なお尋ね者(?)の地吼を追って地下世界の冒険に赴くわけです。
とはいえ、最初に死を提示したのはこの世界におけるルール説明みたいなもので、続く冒険は愉快な調子です。無茶はするけど実力は口ばかりなモウの空回り気味な策や、途中から合流する自称神獣のシャオバオ(CV:中島ヨシキ)との掛け合いがコミカル。
また祖父の仇として同じように地吼を追うシーユイと剣の修行を通して徐々に心を通わせていくロマンスは、挿入歌を流しながらという神海メソッド。精霊や幻獣が跋扈し、地下とは思えぬ神秘的な明るさに溢れたファンタジー空間だからこそ、このお約束の流れも映えます。

ただ、兵馬俑と幻想的な世界が何から何まで噛み合うかって言うと微妙なところでもありまして、残念ながらちょっと調和してるとは言い難い部分もあったかなァーと。
先に挙げたように兵馬俑ならではの表現って欠損時に砕け散るとかなんですが、作劇の都合上モウはそこまで破損させられませんからね……人間であるシーユイとの差異はところどころで示されるものの(シーユイが流す血が何かわかっていない、兵馬俑は食事を取らない等)、見た目は人間と大差ないですからね。もう一歩、兵馬俑ならではって視点は欲しいところではありました。

一番片手落ちだったのが、人間であるシーユイが何故兵馬俑の地下世界にいるのかってことが不明なまま終わってしまうことでして、そこら辺はラストの引きや、ポストクレジットの謎の人物からして続編で…ってコトなんでしょうけど、流石にそこは1作の内に完結させていて欲しかった。
あとどうにも本国での興収が続編が作られるか微妙な位置のそこそこヒットってのが何とも……いや、続編もやるなら観たいんですけど、どうでしょうね……吹替版も実力派キャストを揃えたり、Liyuuによる主題歌とテーマ曲2曲を作ったりでかなり気合入ってるけど『ライオン少年』や『マスターオブスキル』と違ってパンフ作られてなかったりで、ちょっと立ち位置が微妙ではある。
正直なところ、私も昨年の「電影祭」のラインナップの中では「良い作品ではあるんだけど、他の面子に比べるともう一声…!ではある」って評価です。

ただ、再見してみるとやっぱり完成度は高いんですよね。戦いも『キングダム』みたいな大陸らしい大迫力の大合戦から、練炭術師が操る絡繰りや呪霊と戦う少年漫画展開、砂蟲みたいなのに追われるモンスターパニック、水流を下るアドベンチャー、市街地での大捕り物と種類も豊富で飽きさせないし。
それに続編ありきの部分も確かにあるんですが、切ないラブストーリーとしての完成度は非常に高く、これ1作でちゃんとまとまってはいるんですよね。

本作で結構挑戦的なのが、中国においてマッチョイズムの否定をしているところでして、主人公のモウは都を統べる大将軍への憧れから出世を望むんですけど、各地を冒険してシーユイと仲を深める内に地吼との終わらない戦争を繰り返す現在の国の在り方に疑問を持つようになるんですね。シーユイとの語らいは特に象徴的で、半不老不死のモウはどこにでも行ける頑強さと時間があるのに狭い都での出世に囚われていて、逆にシーユイは定命の者だからこそ各地を巡って見識を深めていったという対比になっています。
ここで彼女とのロマンスは、モウが本当に自分がやりたいことは何かを再定義することに繋がり、物語のクライマックスにも大いに影響を及ぼすようになります。このロマンスとバトルを両立させる作劇はやはり巧かったなと改めて感じました。

こうなると一見ミスマッチに思えた異世界冒険譚の文脈も、モウの精神的な成長を描くうえでの見聞として必須だったなという風に考えを改めたわけで、いやこれやっぱり他の作品にも負けず劣らずの秀作じゃないですか…!!
あまりに物語が雄大すぎて、他の中華アニメと比べて若干冗長というかワンテンポ遅めかなって部分は新たに気になってしまったものの、それは他のアニメが爆速テンポすぎるだけとも言えるし。
とにかく、今年も中華アニメが変わらず熱いので、まだやっている『雄獅少年/ライオン少年』(『RRR』を押さえて昨年の個人ベスト1!!!)や来月からの『マスターオブスキル』(声優の異様な豪華さからしてWEBアニメシリーズでも何か動きがあるかも)と併せて是非是非観てくだせぇ!!