平野レミゼラブル

劇場版 SPY×FAMILY CODE: Whiteの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

劇場版 SPY×FAMILY CODE: White(2023年製作の映画)
3.4
【THE 劇場オリジナル】
鬼滅、呪術、FILM REDで無限に上がってしまったジャンプ映画のハードルを「こんなんでいいんだよ」と一昔前くらいのアトモスフィアに引き戻す安心安穏の味。旅行の理由付けの強引さ、かなり浮いているサイボーグ兵士ボスとか「げ……劇場オリジナル……!」となる。

勿論面白くないわけではなく、スパイファミリーのフォーマットでそれらしい話を前半コメディ、後半バトルのバランスでやっているので相応の満足感があります。その上でサイボーグ兵士は完全に劇場オリジナルボスとして本当に唐突に出て雑に消化されたな!?とビックリする

というか、アーニャお前……クレヨンしんちゃんになる気か……!?って具合にヨゴレ役っぷりに全力すぎる。息つく間もなく顔芸はするし、種崎のあっちゃんとゲスト声優に「うんこ」と言わせるノルマが課せられるし、トットちゃんみたいな美麗映像表現でクソみたいなことしている

アーニャのうんこネタで劇場のキッズ大盛り上がりだったんで「マジでスパイファミリーってファミリーアニメって扱いなんだ……」と妙な気持ちになるなどした。真面目にポケモンの映画やらなくなった空きの枠を狙っている感じがあるよ、このキッズ受けネタの盛りっぷりは

その上でスパイファミリーって鬼滅や呪術よりはオリジナルぶっ混みやすいけど、クレしんやドラえもんよりは自由度低いんだなァ……と感じる場面も多々。偽装家族の正体明かさず全員に見せ場作って大スペクタクルにして、それでいて終わったらしれっと日常に戻るハードルが高い

加えて今回は帳が合流する前の時系列だけど帳の出番はあるから、ヨルさんと帳を極力会わさないという縛りまで発生。このオリジナルぶっ混む微妙な難易度の高さが劇場オリジナル味強めの正体であり、弱点でもあるかなァ……あまり踏み込んで話の展開できないんですよね

ドラやクレしんは「もしも世界が○○だったら?」くらいに大喜利レベルで設定を作れるから毎回テイストの違う話をやって盛り上がれるワケで。スパイファミリーはそこまで自由にできないからこそ、本編と同じことを劇場で再生産しているという構造上の欠陥はどうしてもある

今回も主にヨルさんが滅茶苦茶なアクションをやりだす後半は面白いんですけど、前半のノルマみたいな家族の日常描写は正直面白くないんですよね……前半のドラマの大筋って「ロイドが浮気してるとヨルさんが勘違いする」という本当にどうでもよい一人相撲痴話喧嘩なんで……

旅行の目的も調理実習でメレメレ作るためのリサーチと相当に強引な上、メレメレが食べられない&その材料を手に入れる流れはさらに輪をかけて強引。旅行内容にアーニャが言うところの“わくわく"が足りなかったのも残念なところ。折角舞台が違うのに新鮮味がないです

終盤の今回のコメディ要因であるゲスト声優敵とアーニャによる追いかけっこの作画とノリとか、もう完全にクレヨンしんちゃんのテイストだったんで「本格的にポストクレしん目指してシリーズ化を目論んどる……」って感じなんですが、TVシリーズとの差別化は課題じゃないかなァ

前述通り、原作の時系列とか設定とかをそこまで弄れない以上、目指すべきはやっぱり自由度の高いクレしんではないですよね。そこはコナンですよ!あっちだってコナンが自分の正体隠してますしね!スパイだっていっぱいるし。こっちはメイン正体隠し×3で難易度が段違いだけど…!

ヨルさんの今回の生身で飛行機に乗り込んだり機銃掃射を正面突破で突破するカラテは蘭姉ちゃんが大暴れしてる時の楽しさでしたしね!やっぱりここは前半のコメディ削って、後半の爆発をどんどん派手にする方向で盛りましょう。あとは予告でアーニャが「ちちー!」と叫べば完璧

鬼が笑いそうな今後の展望は置いといて、今回一番良かったところ挙げるなら、ちちが無茶しまくったアーニャの目的を知った時の心の声をサイレントにしていた部分ですね。偽装家族でも言葉にせずとも伝わる想いはあるって作中テーマを野暮にせず上品な形で伝えていました

スパイファミリー、実は原作はちょうど帷が出た辺りから追えてないし、アニメも今回初めて観たくらいの温度の作品なんで、割と外野の立場で観ていました。だからこそここまでファミリー層ウケしてたのかってのは発見であり驚きだったなァ……客観的に流行を感じる体験だった

ぶっちゃけ今回の劇場版を契機に、外野から内野に移るかっつーとそうでもないくらいなんだけど、純粋にこれが劇場版として今後どう発展していくのかは興味がある。少なくともTOHOはあの唇お化けクビにしてアーニャを劇場マナー講座に終身雇用してくれ。これはガチでお願いする