平野レミゼラブル

大名倒産の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

大名倒産(2023年製作の映画)
2.7
【どうするコメディ時代劇】
ここ数カ月、いや下手すると去年辺りから松竹系統とイオン系統の映画館で死ぬほど予告編を観せられていたコメディ時代劇。
いやね、その死ぬほど見せられた予告通りに軽~~~~~~いコメディ時代劇であり、本当に何もかもが予告編と同じ調子で軽~~~~~~いため特に言うことはないんですが、デブが何かに当たったらボヨ~ンのサウンドエフェクトが鳴り、「お主も悪よのォ~」なんて台詞を臆面もなく出し、終いにゃアイリスアウトオチなのは流石に「令和だぞ!?」の一言を叫びたくて仕方なかったです。

以前に邦キチで取り上げられていたように、コメディ時代劇は『超高速!参勤交代』以来、安定したヒットが見込まれる作品として毎年コンスタンスにお出しされるジャンルではあるんですが『超高速!~』から徐々にコメディと時代劇の比率というか、コメディ部分の質がかなり俗化しているのは正直なんだかな~って感じではあります。
ただ、それで会場だと結構笑い声が上がってはいたので(年配の方が多かった印象)、届く層にだけ届くジャンルとして定向進化していった結果ではあるんだろうなァ……とも思うので、そうなると僕からはやっぱり何も言えないです。
流石にこの系統の映画ばかりになったら物申したくもなるんだけど、幸い今年は『仕掛人・藤枝梅安』や『せかいのおきく』といった良質な正統派時代劇も多く作られてますしね。大枠で時代劇というジャンルが盛り上がってくれるなら、別にそれでいいです。

邦キチ理論によるとヒットが見込まれる映画の条件は主に3つ。
①史実に基づいた
②侍が金に困ったり走ったりする
③コメディ時代劇
本作も概ねこの条件を満たした作品ではあるんですが、舞台となる越後丹生山藩をはじめとした架空の藩ばかり出てくるファンタジー江戸時代だったりするので厳密には①には当てはまりません。
なので細かい時代考証とかは無視した方がいいです。口調も現代口語だけど、そこら辺古めかしくすりゃいいもんじゃないってのは大河ドラマ『武田信玄』の時点で学んだんで!というか、もうその辺は予告の時点で割り切ってますからね!!(浅田次郎の原作からどれくらいかけ離れたのかはちょっと気になる)

まあ、極限までカリカチュアされた世界観は許容できたとしても、最低限の時系列とかは考えてほしかった部分はあります。
主人公の小四郎が藩の借金を返せず切腹に追い込まれるタイムリミットが表示される演出があり、そこで数カ月程度のお話だってわかるんですが、それだけの期間で故郷が荒れすぎなんだよ!!いくら締め付けが厳しくなったとはいえ、ものの数カ月で戦でも起こったかのように村が廃墟と化し、コヒさんがよれよれの髭ボーボーに没落するのはおかしいだろ!!

出演陣は神木隆之介、杉咲花、松山ケンイチ、宮崎あおい、浅田忠信、佐藤浩市…と大河ドラマ主演かトメグループクラスの人選でやたら豪華なんだけど、そんな豪華キャスト陣にカリカチュアされまくったベタなキャラを演じさせるのはあまりに豪快な使い方としか言いようがない。むしろ芝居巧者な彼らだからこそ、極端な人物像でも成り立った部分はあるんですが、それにしたって使い方としてはかなり勿体ないです。
「ここ伏線ですよ~!」みたいな目配せもあちこちにあり、話の筋がいくらなんでも読みやすすぎるのも鼻につく。もうちょい観客を信頼してくれてもいいんじゃないかって思うんですよね。

あとコメディ時代劇というジャンルに寄りかかるのは良いとしても、参勤交代部分は『超高速!参勤交代』、倹約部分は『殿、利息でござる!』『決算!忠臣蔵』等々の大部分のコメディ時代劇、そして汚穢屋が出てくるくだりは公開されたばかりの『せかいのおきく』で既視感があり、さらにそれら全部を詰め込むもんだから一つひとつの要素が却って薄いという、貧乏な家のカルピス状態になってしまっているのは流石にどうかと思います。
長年多くの人に愛され、数こそ減ったものの形を変えつつ今でも継承され続けている紋切り型の時代劇の様式を否定できる筈もありませんが、それでも流石にコメディ時代劇として飽きられかねないくらいに同じことを繰り返すのもどうかと思うのですよ。この見境なしに予告編をブッ込むマーケティングと併せて、逆にジャンルの寿命を縮ませかねない行為だし、安定したヒットの形として最適化された今こそ見直しは必要になってきていると感じました。

まあ、僕なんかがこうあれこれ口を出すのもおかしな話ではあるんですが、僕だって『超高速!参勤交代』は大好きな作品だし、そっから連綿と続くコメディ時代劇というジャンルも絶やさず続けてほしいんですよ!!だからこそ、切に切にテンプレに頼りきった安直な作品じゃなく、ちゃんと今後に繋がる作品を生み出してほしい想いでいっぱいなんです。
ぶっちゃけ今年はじめに観た『近江商人、走る!』もかなりアレめな作品だったので、ちょっと危機感を覚えている部分は…ある……!!