平野レミゼラブル

BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-(2024年製作の映画)
3.6
【血みどろ闇鍋一直線で行こうぜ!】
ポストアポカリプス世界観で改造人間×吸血鬼×ヤクザ三つ巴による地獄の逃亡劇!!もうB級要素盛り込みまくった闇鍋丼ですが、そういう混沌が好きだろ!?ハイ、大好きです!詰め込みまくってるから死すら省みない殺伐テンポ感が心地良い

本作2022年放映の『エスタブライフ』のスピンオフなんですが、タイトルから外れている通り、その辺の知識無しで観始めて全然オッケーです。僕も元アニメ観てなかったですけど、そっちの主人公の逃がし屋が完全サポートに回っていて映画主人公の物語で成り立ってますから

まあ流石にTVアニメ版の主人公のが動かし慣れてるというか、改造人間の吸血鬼とパンピー女子より、スライム少女に速水奨ボイスのポンコツロボ、アークナイツにもいませんでした?っていうミキシンボイスの獣人とかが集まったパーティーの方に心ときめく気持ちはあったけど!

とは言え劇場版の闇鍋っぷりも大概であり、マイノリティであることを活かしてカルト化してる吸血鬼と、そんな人外に果敢に向かっていく没個性ヤクザの抗争に、それに巻き込まれる主人公組の歌舞伎町のビル屋上を飛び回るというド派手なカーチェイスが最高でしたよ

この複雑な種族や、新宿や人形町等の街の間が壊滅し、住まう種族やルールも違うため往来すら禁じられるクラスタというディストピア世界観の説明で忙しい上、画面もわちゃわちゃするため、単純娯楽ですが結構忙しめ。マッポーな設定がサラッと語られる辺り空気は割とドライ

サイバネや吸血鬼といったイモータルが出る中で絶対かませだろ……って思ったヤクザが割と善戦してたのは嬉しかった。特殊能力はないけど、吸血鬼曰く「各々勝手に動いているが、不思議と一体感はある」という獣の統率力で追い詰める!まあ後半普通にインフレに取り残されて完全離脱したけど。ナムサン!

ヤクザもなんだけど戦いが泥臭いんですよね。主人公のキサラギが改造人間にして吸血鬼という盛りっぷりなんだけど強すぎるワケじゃなく、冒頭の戦いもフェイクを駆使しての満身創痍での薄氷の勝利だったり。吸血鬼としては再生が遅く同族の血も飲む必要があったり弱点も多い

サイバネアームをチューブ状に展開して、そこに銃弾を走らせる……といった仕掛けもアナログな魅力があるし、敵側の方が二重人格で風と炎両方の能力使えますとか、パニッシャーみたいなロマン武器持ってますで映えまくってる対比も渋い。終盤の装備は相応に派手ですが

感覚結構『ニンジャスレイヤー』に近いんですよね。個性豊かなキャラが次々出てきて血みどろの闘争繰り広げ「ウワッヴァンパイアが死んだ」ですから。キサラギもリアリストなんで、誰彼が死んでも「すぐ行くぞ!」ってテンションなためテンポは良くそして空気はサツバツ!

世界が狂ってるから、誰もが罪を犯すしかないぜーッ!に吹っ切れた後半での列車バトルは、全員が「ウワアアァァァ」って叫びながら殺戮しまくるという空気が堪んない。これまで抑圧されてた少女も、まんまマッドマックスのウォーボーイズな彼も血みどろのゴキゲンテンション

抑圧描写も良かったんですよね。クラスタ毎に倫理観すら違うから吸血鬼の住まう人形町はフリーレンの魔族やミノタウロスの皿くらいに意志疎通が困難。共感できないならせめて自分の意志は貫いてやると決意した矢先に突きつけられた死に屈して「何でもしますから!」と命乞う

ヤクザに媚びへつらう生き方を拒んだ少女が、命惜しさに絶対に価値観が違って話が通じない相手に対して奴隷になります!と懇願して、それを後で「なんであの時屈したんだろう」って後悔するんスよ。尊厳凌辱としてマジで良くできてるんですよねェ、ココ……

本作のクラスタ毎の倫理観の違い、それに対して変えようとか理解しようとかじゃなく、それでも自分の中の意志を信じよう。貫いて抗おう!という前進する力に変換してるのが素晴らしく良かったです。理不尽や死に対して足掻くからこそ、道は戻らず進むだけの物語になっている

だからこその血みどろ泥臭さであり、それが最終的に超越系ラスボスにまで適用されるのが堪らなく熱い展開です。乾いた空気の中で展開されるクールで薄汚れていて過激で、でもどこまでも前向きで熱血な直進作品……という矛盾してるような猥雑さが最高の娯楽なんで是非

試写会上映後は倉持明日香氏、ジャガモンド斉藤氏、そして監督の阪元裕吾氏を交えてのトークショーもありました……いや阪元監督、この作品の監督じゃないし1mmも関わってないのに!?本人も困惑してたけどマジでなんで!?谷口悟朗監督は!?熱いアニメトークで面白かったけども