平野レミゼラブル

グッドバイ、バッドマガジンズの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

3.7
【汚い“刺され、誰かの胸に”】
東京五輪誘致によりコンビニから姿を消してしまったエロ雑誌……そんな日本が誇る“ことがない”有害図書編集部の面々の仕事ぶりを描く『ハケンアニメ!』的なお仕事映画。

「手持ちカメラズレてんだよ!何がハメ撮り四天王だバカ野郎!!」
「淫らな女体に和同開チン!」

汚いハケンアニメ!



私自身が割と編集部的なトコで働いているため、編集お仕事あるあるは物凄く身につまされました。営業との意識の乖離とか、向こうからお仕事押し付けてくる感じとかね。
一方、おっぱいをシュレッダーにかけまくり、AVにモザイク処理を施し、低俗すぎる見出しを脳ミソ使って絞り出すカストリ誌独自の文化の異様さには目を見映ってしまう。

インディーズ映画ながら『実話ナックルズ』の編集者がプロデューサーを務めていることもあり、この異様な光景も全て真実(マジ)らしいことにはビビってしまう。誰かの異常は誰かの普通ってことで、そんな「あるある」と「ねェよ!……えっ、あるの!?」が交互にやってくる塩梅の絶妙さはお仕事映画の理想形と言えるでしょう。未知のようで極めて身近なワクワクする世界がそこにある。

僕もむか~しに伊集院光の『深夜の馬鹿力』でやっていた「はたらくおじさん」のコーナーだかで聞いたことはあるくらいなんですが、AVのモザイク漏れはマジでヤバイらしいですね。疲れてるとど真ん中の男根の修正すら見落とすとか、モザイク漏れを指摘されると一気に会社存続の危機にまで発展するとか。
まあ、そのペナルティとして職場でAV撮影することになるってのは、想像を遥かに絶していましたが……!自分が働いている隣のオフィスでナニをやっているかなんてわからないコトを考えると、本当に身近なトコこそ小宇宙……!!

真面目なヒロインがどんどんド低俗な職場に順応して成長(?)とか、それこそお仕事モノのお約束を汲んでいるんだけど、お仕事の内容が正常とは言い難いので他にはない独特の味がします。
それこそ最初はおっぱいをシュレッダーにかけるだけの作業で目が死んでいましたが、後輩が出来るともうノリノリで「和同開チン!」を披露していますからね…!!成長というより堕落では?

また、カストリ誌の治安は終わっており、徹夜上等だし最早内容が内容だけにセクハラどころの騒ぎではない。挙げ句の果てに社内での横領が黙認されているなど、完全に終わっている業界で、終わっている人達が、どんどん終わっていく感じの寂寥感に溢れています。
それでも、前述通りお仕事風景はどこかユーモラスに描かれているため、ロクでもない場面ですらとてつもなく愛おしく、そして豊かに見えてくるんだから不思議なもんです。

例え今は斜陽産業だとしても、確かにかつては必要とされたモノだし、今でも極々少数・超局地的であったとしても、必要としている人は確かにいる。そんな他でもない誰かの胸に刺さっているんだ……ってテーマは、昨年の光のお仕事映画の快作『ハケンアニメ!』に負けず劣らずの輝きを発揮していると言えるでしょう。
……まあエロ雑誌の一番の需要ってのが、田舎の寂れた漁村で隠居した爺様方が個人経営のコンビニで買う文字通りのカストリ目的ってのは、いくら必要と言っても侘しいものはあるし、こんなに汚い「刺され…!誰かの胸に」も他にないなとは思いましたが…!!

一方「人は何故セックスをするのか?」というもう一つのテーマにはどうしても興味が持てず、かつそんなに面白いわけでもなかったのは残念。創る雑誌的に切っても切り離せないモンではありますが、お仕事モノの文脈からは大きく外れていきましたからね。
あとAV女優のコラムニストと主人公の友情関係とかは結構好きだったんだけど、群像劇の体裁を取っている本作でこのテーマに関わっている人物がこの2人と元カメラマンの同僚とその妻くらいしかいない極々少数なのがな。メインストリームから外れてなんかやってるくらいに掘り下げ不足だった気がしてならない。

終わっている業界特有の人間の入れ替わりの激しさから、登場人物の移り変わりも早かったんですが、みんなキャラが立っており、かつ「もっとこの人のこと知りたい!!」って気持ちも結構あったので、これからを期待したい作品でもありましたね。
舞台挨拶でキャストの方も希望してましたが、つまりスピンオフ製作希望ですよ!!『ウェルカムバック、バッドマガジンズ』とかでどうッスか?