平野レミゼラブル

近江商人、走る!の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

近江商人、走る!(2022年製作の映画)
2.3
【商人の知恵というより未来人の知恵】
『超高速!参勤交代』以降、安定して売り上げを伸ばせる娯楽の鉄板となりつつあるコメディ時代劇ですが本作もその路線を汲んだゆる~い時代劇です。
吉本芸人が多数出演している辺り、作風としては相当に軟派。そして江戸中期が舞台なのに登場人物の髪型が総髪風なのがほとんどって時点で、あまり時代考証とかは突っ込んじゃいけない作風だってのはわかります。

ですが、わかった上で言わせてくれ……茶屋の人気盛り返すために、お茶屋の娘に現代アイドルの曲を歌わせるのは流石に時代劇じゃねェのよ!!

いや、そりゃ僕だってガトリング乳母車で敵を薙ぎ払う『子連れ狼』とか、連れ込み茶屋に回転ベッドがある『必殺仕事人』とか、時代錯誤なモノがある時代劇はあるのは知ってるし、そっち方面も好きだよ?でも、茶屋の人気出すための商人の知恵ってことでお出しされたのがAKB方式なのはどう考えてもおかしいよ!?
そもそもこれ商人の知恵というよりタイムスリップした現代人の知恵なんだよなァ……あと依頼人の茶屋娘、半ば風俗化している向かいの茶屋を「矜持がない」と憤慨していたのが発端なのにこのアイドル路線はいいの?ってなるし、何もかもが噛み合っていません。茶屋娘役の田野優花が元AKBだってことで、とりあえずライブやらせました感があり、あまりに安直。
その前の大工の組合を作って積立金を集める…って発想自体は普通に経済の話として成り立っていたので、余計にこのアイドルパートが悪目立ちしています。

それ以外にもかなり脚本に問題点は多いです。
まず、流石に悪役をカリカチュアしすぎ。序盤に少年時代の主人公銀次を斬り捨て御免しようとする武士からして過剰すぎるサイコ演技だったし、メインヴィランとなる悪徳奉行は人間を馬にして室内を闊歩するとか完全に『忍たま乱太郎』の世界観だろうが!!

銀次のキャラクターが幼少期と青年期で変わりすぎ問題もあります。生まれは健気な農家の息子に過ぎないのに、丁稚奉公に出てから異様な記憶力と突飛な発想力に目覚めるのが唐突すぎる。
これをやるなら幼少期から片鱗を見せる必要があったでしょう。例えば大根を売る時に思わぬ商才を垣間見せるとか、それこそ行商の師匠となる喜平から教えを授かるとか作中でもいくらでも描写のしようはありました。
ですが、その過程をスッ飛ばしたせいで、青年期には全ての物事を未来視点で語るご都合主義主人公が誕生してしまいます。オマケに青年銀次、経済以外に興味がない朴念仁のようなキャラになってるので、その突飛な行動の全てが「あれ?俺なんかやっちゃいましたか?」になるのもいけ好かない。

あと時代劇なのに「コウメ太夫役:コウメ太夫」ってなんだよ!!
そこはちょっと笑っちゃったけど!!

何というか、全体的にコメディ時代劇を履き違えている感のある展開や演出が目立つ作品でしたね……
というか、そもそもこれ本当にコメディ時代劇の範疇なんだろうか?過剰なカリカチュアで半ばギャグとはいえ、借金背負わせた人間を馬にして飽きたら斬り捨てるお奉行は普通に悪辣極まりないし、没落して借金を背負うと子供に「恩を返せ」と迫る毒親描写は真に迫りすぎており、あまり笑う雰囲気にはなりません。
勧善懲悪ものにしてもしこりの方が多く残る作風で、そういう意味でも爽快感があまりない。

そんな感じで全体的なバランスが歪で、あまり出来はよろしくないんですが、それでも最後の銀次の策なんかは面白く、これまでやってきたことの総決算って展開でもあり(どうやっても一番のノイズであるAKBが混ざるが)ちょっと光る部分はあります。
おふざけとかに注力するより先に、もっとこういう部分を練ってほしかったなって気持ちは大きいです。