平野レミゼラブル

M3GAN/ミーガンの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

M3GAN/ミーガン(2023年製作の映画)
3.9
【新時代のホラーアイコンAI誕生!!】
ホラー的な脅かし演出に理解があるAIロボットミーガン。いやでも、実際に人間を脅して優位に立つのが目的にあったからこの方法は合理的だし、やけに演出が凝ってるのもネットで拾ったホラー映画群から学習した……って形で補完できるな!!

◇このロボットダンスは……?

わかんない……何だろう……コレ……



『アイの歌声を聴かせて』の吉浦康裕監督がコメントを寄せているように、女の子のために行動するようにプログラムされたAIがロボット三原則をガン無視しつつ何か暴走してる……って映画でして、光のAI崩壊映画である『アイ歌』に対する闇のAI崩壊映画です。

製作がジェームズ・ワン率いるブラムハウスなだけあって、彼の『マリグナント 狂暴な悪夢』を彷彿とさせる描写は多々あります。AI人形がこっちのが速いとばかりに四つん這いで走り回り、人工関節を不気味にくねらせながら跳ね上がるサマや、電化製品をハッキングして操るという現代文明特攻っぷりも共通。むしろ『マリグナント』の怪異はAIでもないのに、なんでこれが出来たんですかね……
そのため、そこまで新鮮な部分はないものの、ミーガンは小柄なパッと見は人間の女の子という持ち味を活かしまくっています。むしろ、怪異のキャラクターとしては非常に優れており、キュートさと受け入れ難さが同居している不気味の谷めいた容姿が良い感じ。中の人の子も13歳のダンサーとのことで、ロボットのような動きと謎のロボットダンスやアクションも出来る人材を発掘しており、全てが魅力的。新時代のホラーアイコン足り得る逸材だと思いますよ。

AIで出来ることを突き詰めるというより、やりたいこと優先な作風ではあり、『シャイニング』の廊下の双子オマージュに始まり、そっからのロボットダンスに至ってはもう思い付いちゃったからやっちった!!のノリでしたよね?殺し方にしても耳引きちぎったり、ケルヒャー高圧洗浄殺といったような感じで割と絵面優先な残虐描写ではあります。
まあ面白いからいいんですけど、ノリで描写しちゃった結果、AIの暴走っぽさは薄れてしまっています。先に例に出した『アイ歌』のシオンなんかは実は感情らしい感情は最後まで描写されておらず、あくまで彼女と関係を持った人間達が自らの感受性を以て感情を感じていた……と取れるんですけど、ミーガンの場合は悪意たっぷりの「このペンを見て」という意趣返しや、「この恩知らずのクソガキがァーッ」というジョジョの敵みたいな断末魔からして確実に感情を獲得しています。最後の方、確実に作画が荒木飛呂彦だったよ。

やりたいこと優先のエンタメ至上主義の作風のため、展開もかなり読みやすくはあるんだけど、こちらの感情をそれこそAIのように読み取って望んだことをそのままやってくれるのは嬉しくはあるんですよ。序盤に出てきたあのロボットのブルース見た瞬間に終盤の展開も自動的にわかりましたけど、実際にその通りお出しされたら「ウオオオオオ!!」って盛り上がったし。
しかしジェマ、卒業制作のロボの造形とか、爆丸をコレクションしていたりする辺り、心にギークの小学生男子を飼っていますよね。ミーガンの異様な頑強さは子供用の玩具として開発されたからで説明がつく一方、徒手空拳の異常な強さといった要素はひたすらに謎でしたが、産みの親たるジェマが男子小学生だったから余計な戦闘機能持たせた…がアンサーだと思います。うん、ジェマは本編終了後に逮捕が妥当じゃないかな。

とは言え、ジェマ本当に優秀すぎるんですよね。これまでちょっと横領しつつ研究続けてたとはいえ、1週間あればミーガン作ってあの凝りに凝ったプレゼンできるわけだし。オモチャ会社でCEOに疎まれている人材としては有り得ないくらいのハイスペックさ。
その辺の描写も含めて絵空事めいてはいるものの、昨今のChat GPTをはじめとしたAIの急激な発達とそれに追いつかない倫理の是非の議論の問題も踏まえると現実的な話に思えてはきます。

冒頭のペッツのCMの時点で若干倫理観がヤバイな…と感じる部分はありましたからね。生物のペットは定命で別れが寂しいけど、AIロボットは永遠の命だから安心!!食事もアプリで取れるし、排泄物も疑似的に出るよ!!
極めて何か生命に対する侮辱を感じます……!それはともかくジブリはさっさと情報を出せや(怒りの飛び火)

ジェマも結局のところ、姉夫婦を事故で失った姪っ子と向き合うことができない(&仕事が忙しい)からAIに頼り切ろうって怠慢から暴走を招いたわけで、結局AIがいくら発達しても人間側が使い方を絶えず工夫したりちゃんと考えて運用しないといけないって警鐘も鳴らしているわけで、シンプルな中にちゃんとテーマも内包されています。
ただ、僕は科学文明を一方的に享受する側だから「科学を推進して何が悪い!!」派閥だし、ジェマに関しても(姪への教育環境の差異からして恐らく)ソリが合わなかったであろう姉の娘を急に養うなんて出来るわけないだろ!ってのはそりゃそうなので、言うほど警鐘方面に興味はなかったんですけどね。
ロボットは戦わせてなんぼだよねって単純思考に支配されてるから……

総評としてはAIの暴走という往年のSFテーマを現代風ホラーに仕立てた上で、単純娯楽作として多少のツッコミどころも残しつつ展開するブラムハウスらしい手堅さがある作品じゃないでしょうか。
しかしアメリカじゃ爆丸が人気どころか、パッケージ付きでコレクションするくらいに価値のある玩具なんだなァ……