平野レミゼラブル

ミンナのウタの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

ミンナのウタ(2023年製作の映画)
3.6
【評価と恐怖の逆再生】
LDH系列のGENERATIONSのメンバーが全員本人役として出演する上、監督が最近の作品を全然観れてないんだけど「村」シリーズをはじめあまり良い評判は聞き及ばない清水崇監督ともあって観る前からだいぶ危険信号が出ていました。

そして序盤からマキタスポーツ演じる探偵が、GENERATIOSのメンバーの顔と名前全然一致しないけど「関口メンディー」の名前だけやたら耳に残るから、とりあえず関口って呼んでみたら「僕とメンディーを間違える人います?」ってキレられたっていう「メンバーの名前全然覚えられねェギャグ」を挿し込んだところで黄色信号。
マネージャー(早見あかり)に夜のお誘いをかけたけどすげなく断られた探偵(妻子持ち)を背景にGENERATIOSの『Lonely』がカラオケ字幕と共に流れ出す演出が始まって赤信号が灯り「この映画は駄目や!終わりや!!」と完全に匙を投げました。



………よくここから正統派ホラー映画として持ち直せたな!?!?
『“それ”がいる森』で銀色のアレが出てきた時と同じ絶望感があったのに、何故かそこから挽回しちゃうんですよ。

要は舐め腐った態度で観たら意外に怖い映画ってコトなんですが、流石に最初に観客に極限まで舐め腐らせる仕掛けを用意する映画ははじめてだよ!ただでさえGENERATIONSのアイドル映画っぽい作りでメンバーの顔と名前の確認作業をしつこいくらいに入れてきた挙げ句、マキタスポーツのコミカルな演技まで交えられたら誰だって駄目だって思うって!!
いつもだったら映画全体がちょけてるような場面でちゃんとしたホラーに転じて襲い掛かってくるという意外性。いや、これを意外性って言うのもどうなんだって感じですが……ただ『来る』や『きさらぎ駅』のように面白いは面白いけど純ホラーと言うにはアクションが強い近年の変型Jホラーとは一線を画すオーソドックスな不気味さで攻めてくる映画が久々に来たなって感じで中々良いんですよ。

何が良いって鏡写しを強調して「今、何かいなかった…?」っていう余白残したホラー描写が主で、安易な脅かしはしてこないんですよ。画面的には別におかしくないんだけど、何故かずっとループする事象など「あっこれはヤバイ…!」って警戒させるような描写とかね。
ジャンプスケアに関しても明らかに何か出てくるであろう扉の方に注目させてから、マジで予期せぬ部分を動かしてくる(それもワッ!って感じのビックリ箱形式の脅かしじゃない)意外性があって良い感じの緊張感を保たせてくれます。

そんな変型ジャンプスケアとしては、関口メンディーの巨体を活かして一端怪異を隠し、再度出た時に変貌してビビらせる場面なんかも良かったですが、そっちは予告でもうあらかた見せちゃってたんで新鮮味が薄かったのが惜しい。
そういう意味では怪異の発生源である家で起こる無限ループのが怖かったですね。あの場面は特殊効果とかメイクとかないのにしっかりビビらせる演出でよく出来ていました。

GENERATIONSの面々も驚き役としてそれぞれキャラが立っていて、どんな人気者だろうと今回は君たちホラー映画の被害者だからな…!と役柄を全うしていたのが好印象。
特に関口メンディーの驚きっぷりはかなりハマっており、動作の大きさや目を見開き具合といいビビり役として天賦の才があります。彼ほどの巨漢がマジでビビってたらもう駄目だ……って気分にもなりますって!!

一方でマネージャーからちょっと不思議キャラと称され、あちこちに潜む怪異にいち早く気付き、関口メンディーに「怪異を気にする素振りを見せたらアカン…」と歴戦の猛者っぽくアドバイスする中務裕太には笑ってしまった。
君、そんな最強の霊能力者ネオ様みたいなキャラなの???
かと思えば、割と成す術なく怪異に翻弄されてガッツリ被害に遭います。
序盤の強キャラ感は何だったの???

メンバーの皆さんもそんなに必要以上にベタベタしてないというか、何か映画用に「俺たち仲間!!」とか「仲間が怪異に攫われたのにヘラヘラしてんじゃねーよ!!」みたいなわざとらしい雰囲気にならず、自然体だったのも良かったです。しっかり現実と地続きのホラーとして成り立っており、モキュメンタリーではないんですけどそれに近しい雰囲気はありました。

因みにGENERATIONSのメンバー全員出演っていう触れ込みですが、数原龍友だけは「いや僕は役者ではないので……」ってことで最初と最後のライブ映像だけの出演で怪異を見事に回避しております。怪異と同じ土俵に上がらないのが何よりの怪異対策なんですね。なるほど……

んで、今回の怪異であるさな。カセットテープに録音したメロディを媒体にして聴いたものに纏わりつき、その周辺にまでメロディを拡散して自領に引きずり込んでいく……という比較的オーソドックスなものでしたが、その悪意のルーツ…というか詳細で逆に意表を突いてきたのが面白かったです。
「色々事情がありそうだな……」から「やっぱりコイツ根本から怪物じゃねーか!」に反転していく部分が最悪で、普通に怪異としての存在階位が高いです。
カセットテープという昭和の遺物も最大限ギミックを活かして無駄もない。まあ、令和の時代にかぐや姫の「私にも聞かせて…」の怪談を聞くことになるとも思いませんでしたが……

あと、さな、何が一番ヤバイかって、ホラー展開に対する我々の対抗手段の一つである「ノリが良い音楽を聴いて気分を高揚させる」を自分のメロディーで上書きして無効化してきますからね。GENERATIONSの楽曲なんてアップテンポで怪異に特攻取れる最たる曲なのに、しっかりメタっています。
若干主題歌の方のGENERATIONS『ミンナノウタ』の方にも浸食していて、アップテンポな中にちょっとおどろおどろしくなる曲調もあったりで良かったです。あと逆再生したら何か聴こえてきそうな箇所がありましたが、実際になんか聴こえてくるみたいッスね……

結構真面目にオーソドックスながら、それでいてこれまでにないホラー映画をやっていこうという気概があり、確かにまだまだJホラーも捨てたもんじゃないな……と思わせるパワーがある作品でした。
一方で絵面優先にするあまりムリがあり、かなりのツッコミどころにもなっている場面(ダイナミック自殺とか)は気にかかるっちゃ気にかかりますが、まあホラー映画としては許容範囲内でしょう。

Filmarksでもホラーとしては破格の高評価ですけど、GENERATIONS人気だけではないとは断言できます。前半こそ「これ本当にしょうもねェホラーかもしンねェ…」とハラハラさせられますが、後半からは真っ当なホラー映画としてのホラーを味わえるわけで、一粒で二度美味しい映画とも言えるでしょう。

……よくよく考えると前半のハラハラは要らねンじゃ!!!!