平野レミゼラブル

プー あくまのくまさんの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

プー あくまのくまさん(2023年製作の映画)
1.6
【著作権の在り方を世に問う問題作】
……自分の意見を通すために他人の威光を借りている上、故人を最強の矛として扱っている敬意の足りない最低最悪の行為そのものだから、これは大嫌いな言葉なんだけど、この作品に関しては敢えて言わせてもらいたい。



原作者が草葉の陰で泣いてるぞ!?


A・A・ミルンが1926年に発表し、全世界で愛され続ける児童文学『クマのプーさん』。1960年代にはディズニーによってアニメ化され、世界で一番有名なくまさんとなったわけですが、ここ10年の間に各国で著作権の保護期間が切れ、パブリックドメイン化しました。
本作はその著作権切れをネットニュースで知った2秒後には「じゃあプーさんを題材にしたホラー映画撮ろうぜ!」という企画書を提出し、5秒後には撮影を始めてた…みたいな作品です。もう完全な出オチであり、スクリーンで流されていた予告編からして既に瘴気が漂っていたため、十中九.九でクソ映画だと確信していましたが……まあ案の定の出来でした、ハイ……
「冗長」「一本調子」「無意味」の三種の神器を兼ね揃えた典型的C級未満のホラー映画です。

一応ね、「100エーカーの森の仲間達は人間と動物の異種交配種だった!」という物語を極限まで曲解したような原作あらすじ風与太話が、絵本みたいなアニメーションで語られる冒頭部分はまだゲラゲラ笑いながら観ることができる余裕があったんですよ。
……が、大人になったクリストファー・ロビンが婚約者と一緒に荒廃した森を訪れ、凶暴化したプーとピグレットに襲われてから一気にクソホラー映画の質感になります。

なお、100エーカーの森の荒廃と仲間たちの凶暴化の理由は、食糧のほとんどをロビンが持ってくるおやつに依存していたため、ロビンが大学進学のために去った後の飢饉に適応できず、同族を喰らって飢えを凌ぐうちに心が荒み人間に対する憎しみが強くなっていった…ってことみたいです。
イーヨーが真っ先に喰われて亡くなったことは語られたものの、冒頭ナレーションで同じように存在が言及されたオウル、ラビットは影も形もありません。予算の都合でしょう。

暗がりで何やってんだかよくわからない映像、ただ同じことを繰り返し叫ぶだけで面白みもない台詞、うっすら見える中でもチープさが漂うプーさんもどきのモンスターマスクの質感、頭を打ち付け鎖による絞殺という工夫のない殺し……と、まあ冒頭段階で低品質ホラーそのものを見せられるんでこの時点で失笑モノです。
そして婚約者を無惨に殺され、ロビン自身もプーに森の奥底へと連れ浚われる……という導入部分を終えた時点で視点はオリキャラの女子グループ5人組に切り替わり、彼女達がバカンス中に次々プー達に襲われる話に移行します。

……オイ、開始10分で原作が『クマのプーさん』という強み(?)をドブに捨てやがったぞ!?

一応、ロビンはまだ生きていて、後にこの女子グループにも合流はするんですが、クソ程の役にも立たないのでいないものとして扱っていいです。自分達を見捨てたと見做して復讐に燃えるものの、幸せだったかつての思い出がフラッシュバックし涙を流すプー(ちなみに本作のプーは涙の替わりに蜂蜜を流す)の愛憎渦巻く鞭打ち拷問シーンくらいですね、見せ場。ナニコレ。

そして、女子達が襲われるホラーとしてもまあ面白くねェんだ……無駄なお色気シーンとか、わかりやすすぎる死亡フラグを立てて案の定なレズカップルはお約束として流すとしても、上記のようにひたすら冗長で一本調子なので早々に飽きます。
むしろ、途中からピグレットへのリベンジを果たそうとするポッと出の女や、藤田和日郎作品に出てくる雑魚キャラ未満のかませ犬どもがひたすら尺を稼いでいく場面が物語に更なる虚無性を与えていく。

ロビンがモブ以下の存在と化した時点で期待しちゃいませんでしたが、それにしたってプーさんという原作の持ち味は全く活かされません。だって、プー達の殺害方法、鎖絞め、ハンマー撲殺、口から刺突、ステゴロと来て終いにゃ車持ち出しての轢殺だぜ?
死体に謎に蜂蜜を垂らしだしたり、蜂を使役して襲わせる能力を発揮する時くらいですね、原作要素が垣間見えるの。原作要素ではない。

もうここまで来ると、指摘するのも野暮ってもんではあるんですが、無意味設定や矛盾の数々も凄まじいです。ヒロインがストーカー被害に悩んでいるってことが作中でセラピーを通して長らく語られるんですが、これに関しては活かされることもないままほぼスルー。そもそも、冒頭のアニメ後のニュース映像からして危険地帯指定されてる100エーカーの森に何を呑気にバカンスに行ってるんだですし、現地住民も森の惨劇を全く認知していないのがおかしいです。さらに人語を一切喋らなくなったと明言されたプー達が喋っていたと証言する人物もいるため、自分達で定めた設定を言った側から忘れている疑いがあります。

邪推なんですが、これもしかして最初別のホラー映画を撮ろうとしてたんじゃないスかね……?
当初のプロットはヒロインを狙うサイコストーカーが森まで追いかけてきて……って感じだったのに、途中から『クマのプーさん』の著作権が切れていることを知った監督が「Oh!じゃあこりゃ盛り込むっきゃねェぜ!!Foo~~~!!」と無理矢理ねじ込んだような……

邪推はともかくとしても、折角著作権切れを狙ったからにはもっと原作要素を活かす努力はしろよってのはマジで言いたいんですよね……『クマのプーさん』を題材にしたのが、ただの話題作り以外の意味を持っていないってのはただただ心証の悪さだけが目立ちます。
一応、それ以外はまあまだギリギリ観ることができるくらいの、商業ギリギリの低品質クソホラー映画って感じですよ。本当にギリギリだが。

でも話題性って本当に重要なんだなってことはしみじみ思わされるんですよ……なんせアメリカじゃ公開初日限定とはいえ『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を抜く劇場動員人数を見せましたし、日本でもせいぜいレンタルスルーが関の山の出来でありながらイオンシアターとかで全国公開だし……僕が観た時、その前に観た『M3GAN/ミーガン』よりデカいスクリーンで上映されてましたからね……流石に「正気か?」の声が漏れたよ……
まあ、イオンは家族連れがほとんどの客層の割に「これ誰が観るんだ!?」っていうエクストリーム配給のC級ホラーを定期的に流すし(大抵1~2週間で打ち切られる)、ミーガンも公開からしばらく経ってるし、そもそも本作の評価ロッテントマトで批評家支持率3%という脅威の低さってことで一過性のブームとして消化されてるだけっぽいですけど……

ただ、またネットニュース観て2秒で企画書提出したような『コカイン・ベア』って映画が話題になってる辺り、昨今のトレンドは瞬間的なバズりだなってのは実感するよ…!ていうかまたクマかよ!!
いや、こっちは結構普通に面白そうだけど!信頼してるからな『LEGO ムービー』と『スパイダーバース』のスタッフ!!

しかし本作、観ても何も得ることはないと思っていましたが、一つだけ考えは改まったな……
著作権保護法、改正するべきだよ!!少なくとも時効無くそうぜ!!俺が原作者だとしてヤだよ、死後とはいえこんなのが作られるの!!俺が仮に何か世に発表することがあったら、死の間際に作品を全て燃やした上で、見た奴を全員呪殺するように努めます。

(こんなこと言いながら来月公開の『マッド・ハイジ』を心待ちにしている辺り、人間は矛盾する生き物なのです……)