磔刑

FALL/フォールの磔刑のレビュー・感想・評価

FALL/フォール(2022年製作の映画)
4.4
オススメ度☆☆☆☆
ワンシチュエーション系でありがちな出オチで終わらず、最後までハラハラさせてくれます。
高所特有のゾワッとした臨場感も随所で感じることができ、高所恐怖症の人ほど楽しめます。
この手の作品には珍しくドラマ性が高く、映画としての満足感は類似作品に比べてかなり高い。応援したくなる人物像、バックボーンも鑑賞の気持ちの良い集中力に繋がっている。
多少、苦痛の伴うシーンやショッキングなシーンはあるものの、友人や恋人、家族と観るにはオススメ。
テーマパークにある絶叫系の乗り物のような安全が確保された状態で極限のスリルが味わえる臨場感抜群の良作です。
<以下ネタバレあり>






全く期待してなかったが、よくできた作品で予想外だった。

まず良い点はしっかりハラハラさせてくれるところ。
高所に登った時特有のゾワッと感を追体験できる。この臨場感だけでワンシチュエーションモノの弱点である変わり映えのしない風景を克服できている。更にそれが一回二回ではなく、要所要所にあるので見ている方の集中力の持続力、キャラクターの命懸けの行動への感情移入にも繋がっている。

もう一つの良い点はキャラクターの成長と一本の大きなドラマがある点だ。
恋人の喪失の克服、父親との和解。この二つの大きな問題を乗り越えるまでを鉄塔サバイバルの中での生存競争と極限状態の生への執着から生み出された人間的な成長、価値観の変化をによって上手く描いている。
また逆に人間的な成長によって鉄塔からの孤立からの脱出に成功したと言え、ワンシチュエーション系作品のありがちなバッドエンドや、都合の良いハッピーエンドとは一線を画する説得力が確かにある。

限られた空間でのトラブルには限界があるが、細かい伏線回収によってドラマに起伏と緊張感を作ってるのも上手い。
前述の通り、ワンシチュエーションだと“飽き”が一番の難題で、どうやって茶を濁すかってのが制作陣の腕の見せ所だ。そして今作はお色気にその役割の一端を担わせているのだが、露出に納得行くだけの理由づけしているだけでも物語への没入感が違う。

ただ、限られた空間ってのもあって起こせる大きな起伏には限界があるのも事実。
個人的には友人が実は中盤で死んでいて、幻覚を見てたはさ流石にやり過ぎで冷めた。無理矢理ドンデン返しみたいなことしなくていいし、いくら極限状態でもあれだけ長く幻覚見るのはおかしい。半ば夢オチにすら思える無理矢理感、シチュエーションとの関連性の薄さもあり唯一のストロング残念ポイントだ。

上記のシーンでかなりガッカリしたが、クライマックスの主人公の覚悟で盛り返した。
友人の死を文字通り乗り越える劇的過ぎる方法は脱出の成功の説得力として申し分ない。彼氏の指輪で充電するくだりと同じくらい、キャラクターの成長と困難に立ち向かうことがドラマティックに描かれた素晴らしいシーンである。

この手の作品はほぼ出オチで、中盤以降は盛り上がりの手段が無くダラダラと続くのが大多数だが、最後の最後までハラハラさせてくれ、人間ドラマも十分に備わった優れた映画として評価できる作品だ。
磔刑

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