磔刑

オッペンハイマーの磔刑のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.0
オススメ度☆☆☆
長い!!!その上タイムラインがゴチャゴチャしててややこしい!!後半は人の名前が飛び交って頭おかしくなるわ!!
日本人なら是非見ておきたい題材だが、日本への原爆投下にそこまで重きを置いてないのでそういう意味では期待はずれ。良くも悪くも賛否両論のセンセーショナルな作品ではないので肩透かし。
3時間もある割に見せ場はほぼなし。会話劇かメインだ何、会話に特別面白味やスリルもないので退屈。物理学や史実に詳しければもっと興味深く観れる。というか予備知識は必須。
ノーランなら『メメント』、『インセプション』、『ダークナイト』が大好きです。
<以下ネタバレあり>










面白いかそうでないかで言うとハッキリ言って面白くない。
これは内容が自分のモチベーションと乖離していたのと理解不足の2つが原因だ。

まずモチベーションとしては、やはり日本人としては広島、長崎への原爆投下に対するオッペンハイマー(キリアン・マーフィー)の考えが気になった。それと同時にノーランが核兵器の存在や原爆投下に対してどのような思いで今作を作ったのかが気になった。
しかし映画内での日本への原爆投下はアッサリしてるというか…。物語の通過点にしか過ぎないというか。そもそもオッペンハイマーがあんまり苦悩しない。何なら原爆投下にウキウキ(誤訳)なので、根本的に自分が期待した内容じゃなかったというのが正直なところ。
もちろん被害者意識増し増しで「日本に謝罪しろ!!」とかじゃ無くて、史上最悪の殺戮兵器を開発した男は何を思うのか…?という人間的な部分が率直に興味深かったのだが、そこが掘り下げられることは無かった…。無かったは言い過ぎだがそこが主題ではなかったのは事実だと思う。

じゃあ何かというと、その後の法廷?劇。これは予備知識無い日本人全員ポカーンな内容。実際私は呆気に取られました。
日本人からしたら原爆投下の是非や、それに対する苦悩葛藤がメインだと思うじゃないですか。そうじゃなくて権力闘争でゴタゴタしてて「えぇ…」って思った。まぁある意味アメリカらしいといえるけど…。

で、二つ目の問題点は複数のタイムラインを同時進行で見せる必要性ってありました?
尋問?から過去の遡るのは導入として良いでしょう。でも原爆を作るまでと尋問、法廷劇、さらには水爆開発の是非を同時進行する始末。いやいや!頭おかしなるわ!!
先述したけど、こっちはオッペンハイマーが原爆を作り出したことにどう向き合うかを観に行ってるのに、まだ原爆の完成、投下もしてもいないのに水爆の是非の話してるやん!!投下前と投下後のオッペンハイマーの考えって全く違うのにそれを並行して見させられても感情移入できないでしょ。ましてやそれを交互に見せるから感情(モチベーション)の置き所が分からなかった。
というか途中まで原爆開発の話かと思ってたわ!!どうりで会話が物語の進行と噛み合ってないなーとか思ったよ!!

これ私の理解力不足なんですかね?率直に時系列乱す意味ってあります?普通に時間軸通りに進めて何の問題も無かったと思うし、それによって映画の質が悪くなること無かったと思うんですけど……。
単調な導入に緊迫感作ろうとしてるのは分かるんだけど、別に原爆作ることも、それを投下するのも観客みんな理解してるんだから、その共通認識で十分緊張感作れてると思う。更にその先の裁判云々まで最初に見せる必要性があったかなぁ?と思う。観客に必要以上の負担を強いる過剰な演出に思えた。

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良かったシーンは原爆投下後のオッペンハイマーの演説。
オッペンハイマーが自分のしでかしたことに怖れるのもそうだけど、多くの人命を奪ったことに対して開発に携わった人々が熱狂することの怖ろしさが直感的に感じ取れた。まぁその場面のオッペンハイマーの畏怖は“同胞が原爆の被害者になること”であって、極東の猿にはこれっぽっちも憂いて無い。それが事実かどうか置いといても白人らしい傲慢さの皮肉が効いてて良かった。

ノーランの血に混じるブリカス魂がオッペンハイマーに対して辛辣な皮肉が込められてたと思いました。
上記のシーンや奥さんに「その程度の苦悩で罪滅ぼしになるかぁ!!」って言われたり、ダウニーに「被害者の王様気取り(意訳)」とか言われたり。あと広島、長崎の描写が無いのはオッペンハイマーが原爆投下そのものに目を背け、自己に責任が無いように振る舞っていると思わせる演出で、少なからずノーランの心のブリカス煽りが炸裂していると勝手に解釈した。まぁアメリカか日本、どちら側に立つぐらになら遠くから両方嘲笑するぐらい良いと思います。難しい題材なんで第三者の立場で皮肉混じりで描くぐらいが作り手に被害無くて済むとか打算的に考えてるだろ。流石にブリカス。

あともう一つ良かったシーンはオッペンハイマーが大統領に謁見する場面。
何より大統領の懐のデカさに感銘受けたね。「なに開発者如きが責任感じてんねん、原爆落とす決断下した俺(大統領)が全ての是非も是が非も全ての責任負ってるんじゃ!!」は敵ながら天晴れと思った。是が非かは置いといてもそこまでの気概があるのなら一国の長としての責任感としては十分じゃないですか?逆にやっぱりアメリカみたいな超大国の大統領は不遜過ぎるほどの自信が無いとやっていけないんだなぁとつくづく感じた。
国家と国民がそういう精神性を共有してるからこそ、ハリウッド映画でいまだに核兵器が戦争を終わらせる最終兵器として肯定的に描かれるんだなとも思った。
その大統領の言葉でオッペンハイマーが「そっか!俺は作っただけなんだから責任無いわ!!責任は投下の許可出した大統領やわ!!」って切り替えるクソっぷりに思わず爆笑。絶対ノーラン、オッペンハイマーのことちょっとバカにしてるよね?

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あと個人的に不服なのはストローズ(ロバート・ダウニーJr.)突然ヴィラン化するのなんなん?
全然話に関わって無いし、オッペンハイマーとの接点も少ない部外者が後になって「あの時恨んでましたわ〜」ってメンヘラムーブキメだして何じゃそりゃ!??と思った。
オッペンハイマーがアインシュタインと会話するシーンなんか観客みんなアインシュタインにしか興味持って無いから「あの時俺を馬鹿にしてたよね???(憤怒)」とか言われても誰もお前のこと知らねーよ!!何ならその後の伏線回収の為にアインシュタインがミスリードに使われててそれはそれでどーなの!?と思った。そもそも前半で未来のタイムラインが不自然に出るのがダウニーヴィラン化の伏線の為で、伏線回収のためだけに構造をややこしくする必要があるのか?こっちはオッペンハイマーにしか興味無いのに後半でストローズがグイグイ出てきて何なのこれ…と思いました。そもそもタイムライン操作がオッペンハイマーの為じゃなくてストローズの為なのはどうなんですかね。
ドンデン返し程じゃないにしろ、“明確なオチ”が無いと不安になるのは根本的にはシャマランと同じ作家性なんだなと思った。

オッペンハイマー個人に全く興味も感情移入もできなかった。
彼のパーソナルな要素は嫁と愛人との関係だが、ストローズと同じく聴聞会で揚げ足を取られるための伏線、舞台装置感は否めない。
だって愛人が死んでも別に何の感情も湧かなかったし、嫁や愛人との関係性が特別にも見えなかった。科学者ではない人間的な心の揺らぎや曖昧さは感じ取れなかった。
フローレンス・ピューには申し訳ないけど、乳首出すためだけに出てきたようなもんでしょ。乳首出したら一流とされる邦画の女優(笑)かな?

聴聞会の完全再現のこだわりからもわかるけど、ノーランは別にオッペンハイマー個人のドラマ、特に人間性にそこまで興味無かったんじゃないかと思う。
『ダークナイト』で実際に病院爆破したり、『ダンケルク』で実際の戦闘機を飛ばしたり、『インターステラー』でTARSを作ったりと一緒で、史実(記録)を完全再現に近い形で復元させたかったんじゃないかなと思う。そこにノーランらしい職人気質な偏執的な拘りはあっても、血の通ったドラマがあったかは甚だ疑問である。
オッペンハイマーの「とりあえず作って、それをどう使うかは後から考えればいい」と一緒で、史実をなぞった作品から何を思うかは観客が決めろと言ってるのではないかなと思った。

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内容と関係無いですけどアカデミー賞にも触れますけど、これが作品賞と監督賞ダブル受賞…。
その是非よりも私は日本に2つのアカデミー賞が渡されたのが“政治”なんじゃないかと疑ってる。つまり日本にとっては良い題材じゃない今作を盛大に祝うけど、2つ賞あげるから文句言わないでねって言う。あと日本でも公開してねっていう圧力。
個人的に『ゴジラ』は勝手にどうぞって感じだが、『君たちはどう生きるか』の受賞は流石に不自然でしょ。『スパイダーバース』を差し置いてはおかしい。これは間違いなく陰謀だ。アノニマス、イルミナティ、ディープステートの仕業に間違いない。

まぁ実際、日本如きにアメリカがそんな配慮するとも思えないんだけど、どちらかいうと私は日本側の態度の方が気に入らない。
今作の題材や本国での公開日的にも日本大手の配給やメディアは完全スルー。かと思ったら日本がアカデミー賞受賞したら恥も外聞も無く尻尾振る始末。いやいやお前らがスルーした問題作(別に何の問題でも無い)が総なめにしてる賞をありがたがってんじゃねぇよと。
二つも賞貰ったから、今作を公開せざるを得ないかったかは知らんが、そもそも普通に公開しろよと。
宗教色強い国で同性愛シーンがある映画の公開取りやめになったら「これだから後進国は〜現実と創作の違いも分からないの〜?それ表現の自由の侵害なんだが〜?」みたいなリベラル優等生ぶっといて、この程度の作品の公開も躊躇するんだからクソでしかない。
こちとら作品の是が非かは内容見てから個々で決めるんだから、勝手に個人が鑑賞する機会奪うなって話。

あとキリアン・マーフィーとダウニーJr.の演技も別に特別良いとは思いませんでした。

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色々話が長くなりましたが、今作ってどの部分がストロングポイントか分りません。どこに面白さを見出せば良かったんですかね?
人間ドラマもそれほど重厚でないし、演技も特別よく無いし、大作としての派手さにも欠ける、特別スリリングでもないし、3時間に耐えうる訴求力や魅力もない。
でもこういう映画が超絶ヒットするアメリカはなんだかんだ言って映画リテラシー高いなと思った。今の日本じゃこんな題材の映画作られないし、ヒットなんか考えられないからね。そういう意味ではアメリカが羨ましい限りです。
ただ、今思えば“バーベンハイマー”みたいな話題も映画会社や広告屋が裏で画策してたんじゃないかなぁと思います。まぁ別に良いんてすけど。

そもそもノーランにはこういう硬派な演技力重視の現実的な作品向いてないと思います。
それに予備知識ガチガチに必要な時点で完璧な映画とは程遠く感じます。原作があろうが、元ネタがあろうが映画は映画単体で完結すべきだと思う。
とにかく私は思想抜きで、単純にエンタメ映画として全然好きじゃないです🤯🤯
磔刑

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