磔刑

メメントの磔刑のレビュー・感想・評価

メメント(2000年製作の映画)
5.0
オススメ度☆☆☆☆☆
2回観ないと完全に理解することは困難なミステリー映画の金字塔的作品。記憶を消してもう一度観たい系の作品なので、とりあえず事前情報を何も入れずに鑑賞すると最高に楽しめます。
<以下ネタバレあり>








初見は10年以上前で、それ以来の鑑賞でしたが最高に楽しめました。
シーン毎に時間が逆行する構造はシンプルだが内容をある程度知っていても混乱する。逆行する現在のカラー本編をと並行して映される順行する過去モノクロを挟むから余計に混乱する。

話自体はシンプルだし特に斬新でもないが、上記の二つの時系列をそれぞれ過去から現在、現在から過去と映し出す構造なだけでミステリーとしての面白さが何百倍にもなるのは目から鱗。
物語の逆行自体はコロンブスの卵的で、いつか誰かが思いつく発想とも言えるが、ラストを過去と現場から挟み撃ちにするツイストが効きすぎた構造を完璧に作り出すのはさすがノーランである。

主人公の記憶力の曖昧さを他人事のように見始めるが、逆行する時間の中必死に記憶しようとする観客の苦悩と葛藤が次第に主人公に深くリンクする。
そして実は復讐はとっくの昔に完了し、それすら忘れる恐怖と2時間足らずの記憶ゲームに翻弄される観客の無力感が見事にシンクロするラストは大きな恐怖としてのカタルシスへと変貌する。

その高揚感も一度の鑑賞で訪れたさせない構造で、一度目は見事に煙に巻かれ、二度目でようやく虚無感に打ちひしがれる真実に辿り着く映画体験は唯一無二。

オープニングの写真の現像が巻き戻る演出はこれから起きる混沌を端的に視覚化した美しい比喩だ。主人公が何度も口走る記憶を失った男か実は自分だったというオチも見事な捻り。ノーランは昔から素晴らしいエンタメ職人だと改めて確信させられた。
構造的な革新性と、複数回の鑑賞で作品への理解が変わる唯一無二の映画。
磔刑

磔刑