タケオ

クレイジークルーズのタケオのレビュー・感想・評価

クレイジークルーズ(2023年製作の映画)
1.3
-豪華客船(風)の虚ろなセットとVFXが、本作の病理を如実に物語っている『クレイジークルーズ』(23年)-

 豪華客船を舞台にしたミステリー仕立てのロマンティック・コメディ───とのことだが、本作最大の問題は舞台となる客船が全く豪華に見えない点だ。船内のディスコはせいぜいプロム程度のクオリティ。富裕層の子供たちの育ちを示すアイテムが'チェス'という絶望的なまでの発想の乏しさには唖然とさせられた。
 当初は実際に豪華客船「MSCベリッシマ」に乗り込んで撮影を行う予定だったものの、COVID-19の感染拡大によりセットでの撮影に切り替えられたという事情はあるようだが、肝心のセットやVFXの救いがたいほどのチープさによって、映画の品格が著しく損なわれている。行き当たりばったりの脚本の杜撰さも看過しがたい。各キャラクターには書き割り程度の設定しか与えられておらず、おまけに動機も不明瞭のため、それぞれのドラマがやがて1つに集約していくグランドホテル形式ならではのカタルシスがまるでない。脚本を務めた坂元裕二は自身の代表作『東京ラブストーリー』(91年)や『ラストクリスマス』(04年)のようなトレンディドラマを今という時代に再現しようと試みているのかもしれないが、いわゆるトレンディドラマ'風'の記号ばかりが散りばめられた本作には、もはや形骸化した'それっぽいもの'しか残されていないのだ。主人公2人は(それっぽく)人生に悩み、(それっぽく)惹かれ合い、(それっぽく)一緒にプールに飛び込み、(それっぽく)探偵ごっこに興じ、(それっぽく)事件を解決し、そして(それっぽく)ハッピーエンドを迎える。中身などない。虚ろとしかいいようのない豪華客船(風)のチープなセットとVFXが、本作の病理を如実に物語っている。
 チープにチープ、陳腐に陳腐を重ねた本作はトレンディドラマの再現というよりかは、むしろトレンディドラマというフォーマットの劣悪なパロディに近い。トレンディドラマというフォーマットを現代に再現するためには時代に合わせたチューニングが必要不可欠のはずだが、坂元裕二はその作業を放棄してしまった。かつてのトレンディドラマの記号に縋るだけの虚ろな本作をなんと呼ぼう?'トレンディ'というよりかは'ゾンビ'のほうが相応しいだろうか。
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