タケオ

北極百貨店のコンシェルジュさんのタケオのレビュー・感想・評価

3.5
-失われゆくものを前に、我々はどう振る舞うべきなのか『北極百貨店のコンシェルジュさん』(23年)-

 物語だけに注視すれば新人コンシェルジュの秋乃(川井田夏海)が失敗を繰り返しながら成長していく姿を描いたサクセス・ストーリーだが、同時に本作は「取り戻すことのできない失われたもの」にまつわる寓話となっており、キュートなルックとは裏腹に、時に思わずゾッとするような瞬間が訪れる。
 舞台となる北極百貨店では、人間たちが絶滅危惧種を含む多種多様な動物たちを客としてもてなす。表面的には愉快なファンタジー世界だ。しかしそこには動物たちの文明社会こそ広がってはいるものの、人間たちには私生活というものがまるでない。まるで人間は百貨店で働くことでしかその存在を許されていないかのようだ。共存というよりかは隷属に近い。『猿の惑星』(68年)の猿と人間の関係のように。中盤、オオウミガラスのエルル(大塚剛央)が「この百貨店は人類にとっての贖罪だ」と口にする。動物たちに対する人類の贖罪が消費社会の象徴たる百貨店とは、実に皮肉な設定だ。物語終盤に登場する船のモニュメントは、否が応でもノアの箱舟を連想せずにはいられない。人類の罪と罰にまつわるモチーフを、キュートなアニメーションの中にサラリと溶け込ませてみせるところに本作の凄みがある。
 本作はオムニバス形式となっており、各エピソードは「製造が既に終了してしまった香水」や「砕けてしまった氷の彫像」など、いずれも「取り戻すことのできない失われたもの」に纏わるものとなっている。百貨店を訪れる絶滅危惧種の動物が「取り戻すことのできない失われた存在」であることはいわずもがな、それは自動化によって徐々に失われつつあるコンシェルジュという職業についてもまた同様であろう。「失われゆくものを前に、我々はどう振る舞うべきなのか」───その問いは、今この瞬間にも文明社会を生きる我々自身に突きつけられているのだ。
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