タケオ

レプタイル -蜥蜴-のタケオのレビュー・感想・評価

レプタイル -蜥蜴-(2023年製作の映画)
3.4
-曖昧模糊とした作品でも、ベニチオ・デル・トロの存在感だけは確かだ『レプタイル ー蜥蜴ー』(23年)-

 監督のグラント・シンガーは「CBR」のサム・ストーンとのインタビューで、本作について「アメリカの暴力犯罪の曖昧性、それに関わる人々の多面性を描きたかった」と語っている。シンガーはCMやMVの手腕には定評があるが、こと劇映画においては本作が監督デビュー作だ。いきなり「曖昧性と多面性」という抽象的なテーマに挑むのは、いくらなんでも無茶が過ぎるように思えてならない。果たしてその結果は ───?
 結論からいうと、やはりシンガーは「曖昧性と多面性」という抽象的なテーマを前に答えを出せなかった。「ベニチオ・デル・トロ演じる刑事が不動産業者の死の真相を追う」というシンプルなプロットながらも、曖昧模糊とした語り口のせいで全体的に散漫な印象を受ける。「多くの要素を盛り込みたい」という気持ちも理解はできるが、いくらなんでも詰め込みすぎだ。くわえて『イット・フォローズ』(14年)や『アンダー・ザ・シルバーレイク』(18年)などの作品で知られるマイク・ジオラキスによる優美な撮影も、むしろ映画の未整理さを際立たせてしまっている。「アメリカの暴力犯罪の曖昧性」を描くはずが、映画そのものが曖昧模糊となってしまっては本末転倒だろう。また、「信用ならない軽薄なイケメン」不動産業者の役に、『ソーシャル・ネットワーク』(10年)や『女と男の観覧車』(17年)などの作品で「信用ならない軽薄なイケメン」を演じてきたジャスティン・ティンバーレイクを配する安直さも気にかかる。もはや「多面性」もクソもない。お前、見たままの役じゃねぇか!
 なんて具合に色々と不満こそあるものの、それでも本作がサスペンス映画としてある程度の強度を保てているのは、偏に主演ベニチオ・デル・トロの圧倒的な存在感のおかげだろう。どうにも掴み所のない曖昧模糊とした作品ではあるが、ゆえに「不正や悪徳を前にしても'己の正義'がブレない男」という主人公のキャラクターだけは際立っている。
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