タケオ

NO選挙,NO LIFEのタケオのレビュー・感想・評価

NO選挙,NO LIFE(2023年製作の映画)
3.8
-カメラを片手に全国を駆け回るとき、畠山理仁の目は光輝く『NO選挙, NO LIFE』(23年)-

 「候補者全員取材」をモットーに全国各地で選挙取材を敢行するフリーランスライター畠山理仁の活動を追った政治ドキュメンタリーである。もちろん政治ドキュメンタリーらしく「民主主義」や「報道の在り方」など多岐にわたるテーマを扱っているが、同時に本作は、ひとりの中年の不器用な生き様を描いた熱いドラマとしても仕上がっており、たいへん胸に迫るものがあった。
 映画初盤、カメラを向けられた畠山理仁の妻は「あの人は勤め人には向いていない」と笑いながら話す。映画を観るかぎりではあるが、おそらくその通りだろう。睡眠時間は平均2時間。取材のために国内外を常に駆け回っているため、どれだけ書いても原稿料が経費に追いつかない。家では片付けやゴミ出しすらマトモにできず、家族からは叱責されている。ギリギリの綱渡りのような生き方だ。"安倍晋三銃撃事件"をきっかけに多くの候補者たちが演説を取り止めたことで「そろそろ潮時か」と自分の人生を見つめ直したりもするが、「これが最後」と2022年沖縄県知事選挙の取材に赴くや否や、たちまちジャーナリスト魂に火がついてしまう。その姿はプロフェッショナルというよりかは、むしろジャンキーのようだ。畠山理仁は明らかに選挙に取り憑かれている。ギリギリの綱渡りのような生き方を心の底から楽しんでいるのだろう。「これこそ自らが為すべきことなのだ」と云わんばかりに。
 畠山理仁が選挙にかける情熱はほとんど狂気にも近い。常人にはなかなか到達できない領域に生きているのだ。カメラを片手に全国を駆け回るとき、畠山理仁の目は輝いている。それは「自らが為すべきこと」を理解し、そして引き受けた人間の目であろう。畠山理仁の輝く目が観客に問いかける、「貴方には人生を懸けて為すべきものはあるか?」と。いま、自分の目は輝いているだろうか───?
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