いなせなマホ

エゴイストのいなせなマホのレビュー・感想・評価

エゴイスト(2023年製作の映画)
4.5
レビューno.110:

宇多丸が評判がいい、評判がいいと言うので、全く興味を持っていなかったが、観てみた。結果、良かった。とても良かった。最後の方はずっと泣いていた。こういう作品を観ると、やっぱり映画を観続けたいと思わせられるような素晴らしい良作だった。

この映画はゲイカップルの話のように見えて、全く違う。ヤングケアラーの話だ。
父親が蒸発し、母親は病気がちで働けず、14歳の子供が学校を中退し働かなければならなかった。14歳の子供が働ける場所は限られており、結果、夜の街でウリをして生活費を稼いでいた。

今巷では「まんこ二毛作」という言葉が盛り上がっている。若い時は若い性を売りにして稼いでいたのに、歳を取ったら性を搾取されたと騒いだり、その時のことを暴露して金を稼いだりすることのようだ。

ある者から見たら、自らの意志で性を売って稼いだくせに、売れなくなったら搾取されたとわめく姿は自己中で腹立たしく感じるだろう。その気持ちも良くわかる。

でもその怒りが沸くのはそのお金でハイブランド買って、遊び明かしていることが前提になっている。今回のように他に選ぶ手段がない。もしくは手段を知らない、わからないがゆえにウリを選択せざるを得なかったということを知っていたら、同じことをその人の前で言えるのか?と思う。

今、強盗殺人が多発している。平和で安全であったはずの日本がスラム化待ったなしの状態だ。これは結局、弱肉強食的世界観による弱者切り捨てによって大量発生している自分の将来に希望を持てず、瞬間の快楽を得るための金稼ぎや社会への復讐を目指すような「無敵な人」が多くなってきている証左だと思う。

自分だけが、自分のまわりだけが幸せなら他の人がどうなろうと関係ないと思う気持ちもわかるけど、結局それにより社会が荒れて、自分や自分の周りの人が被害にあう可能性が高くなるなら、もう少し厚いセーフティーネットを税金をあげてでもして欲しいとさえ思った。

他者の幸せが巡り巡って自分の幸せにつながる。「情けは人の為ならず」というのはこういうことなんだろうなと思った。

その上で、ゲイというものを考える。最初に鈴木亮平と宮沢氷魚が舌を絡めてのディープキスをするのを見せられた時、本当に気持ち悪いと思った。家で観ていたら一時停止して、もう二度と観ることはなかったと思う。

でも、映画館なので一時停止は出来ず、観続けることになる。そしたら中盤から気持ち悪さ減ったよね。慣れたよね。

これってとても大事なことなんだと思う。慣れてないから気持ち悪い。女同士で手をつなぎ合って歩いてるのを良くみるけど、最初はびっくりしたもん。でもそれが当たり前のような空気感が出来てきて、別に女同士で手をつないでもおかしいと思わなくなった。

男同士手をつなぐのも、慣れだと思う。結果見慣れたら自然と受け入れていくのだと思う。俺はだからこそ、権利だ!!とか主張するのではなく、こういう映画や「昨日何食べた?」みたいな映画、ドラマを作り続けることで、慣れさせて、当たり前の位置を少しずつ変えていくのがハレーションもなく、良いと思っている。

今では当たり前に誰でも髪の毛を染めているけど、昔は髪を染めているだけで絡まれたんだから。ゆっくり時間をかけて少しずつ当たり前の位置を変えていくこと。これが俺は大事だとこの映画を観て改めて思ったけど、フェミニストはこういう考えが嫌いなんだろうなー。
いなせなマホ

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