ゼロ

正欲のゼロのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.3
観る前の自分には戻れない。

朝井リョウさんのデビュー10周年記念作品を映像化したもの。時代を切り取る朝井リョウさんの作品らしく、「普通」「ダイバーシティ」「常識」を問う作品となっていました。

物語が群像劇となっており、寺井啓喜・桐生夏月・神戸八重子・佐々木佳道・諸橋大也の視点から、それぞれの日常が描かれています。

稲垣吾郎さん演じる寺井啓喜は、検事役をやっており、不登校の息子・泰希がユーチューバーを目指すことに理解を示さない演技が絶妙でした。 新垣結衣さん演じる桐生夏月は、地元の寝具店で淡々と仕事をし、私生活に色気がなく、どこか自分の人生を他人ごとに生きる投げやり感が上手かった。他にも、 磯村勇斗さんや東野絢香さんなど演技が上手い人が多かった。

岸善幸監督の拘りがあるのか正面からの映像が多かった。あえて映画的な華やかな演出をするのではなく、ドキュメンタリーのようなぶっきらぼうさが画面から伝わってきました。

作品の冒頭から「水」の演出はあり、作品のテーマを考えても、この「水」が非常に大切なものでした。私は、桐生夏月と佐々木佳道からの情熱が画面から伝わってきませんでしたが、たぶん誰も当たり前に持っているものだから、あえて大袈裟に描かなかったのかも。ただ水と戯れるガッキーは無邪気で、可愛かったです。

最後に稲垣吾郎さんと新垣結衣さんが向き合います。お互いの普通の価値観を吐露しますが、「いなくならないから」と言葉にするのが普通なのか?それとも異常者なのか?誰にも分かりませんが、こうした価値観を考えるきっかけになる素晴らしい作品かと思います。

孤独は誰もが寂しく感じるものですからね。
ゼロ

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