ケイスケ

フェイブルマンズのケイスケのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.8
映画監督の半自伝…と聞くと、一般的には「夢は諦めなければ叶う」とか「好きなことに夢中になれ」など連想しがちだが、この英語では「芸術家は呪い」や「家族を捨て孤独になる覚悟」について語られるという。しかもそれを世界一の映画監督スピルバーグから語られるというのが味わい深い。

初めて訪れた映画館で映画に魅了された少年サミー・フェイブルマン。その後彼は8ミリカメラを手に、家族の行事や旅行などを撮影したり、妹や友人たちが登場する作品を制作したりするなど、映画監督になる夢を膨らませていく。母親応援してくれる一方で、父親は彼の夢を本気にしていなかった。サミーはそんな両親の間で葛藤しながら、さまざまな人々との出会いを経て成長する。

あと本作は家族の呪い話だと思っており、特にサミーがお母さんのある事実を知ってしまうところは、それでも家族として過ごしていかなければならない鬱屈さがあります。加えてサミーが引っ越し先の大学でいじめにあい、お父さんに不満をぶち撒けるところなど、家族の崩壊が徐々に始まっていくところはホラーだと感じました。

まず冒頭、主人公のサミー・フェイブルマンが初めて映画館に行きジョン・フォード監督の『リバティバランスを射った男』を観ています。スピルバーグ手練すぎるなと思ったのは、もうこの最初の5分間で感動させてくるところですね。なんなら自分もフェイブルマン少年と同じ顔しながらこの映画を観ていましたからね笑。

映画の自主制作シーンは様々な映画で描かれますがやっぱりワクワクします。戦争映画の主人公を演じた少年が胸を打たれアドリブをしてしまうのが好き。普通、我が子があんな血みどろ映画を作れば叱りそうだけど、それよりも感動が上回ったのが良かった。まあ最初の電車激突を撮ってるときは怒ってましたけどね。プロムの一連のシーンも最高だったなあ。

本作の何が秀逸かといえば、映画の「楽しさ」を描くと同時に「恐ろしさ」も避けては通れない部分も描いていること。画面を通して作り手の意図されない解釈をされてしまうのは映画には付きもの。あ、『大怪獣のあとしまつ』で言い訳してた作り手はそういう問題じゃねえからな?加えて画面に“映ってしまった”ものを巡る一連の家族描写はめちゃくちゃ怖かった。引っ越した家でカメラを回してるとこも何か不穏なんだよね。

本作は151分と長めですが冗長さは全く無く、なんならあと1時間くらいサミーの物語を見ていたいくらい。ラストに出てくるジョン・フォード役の人って公開されてるのかな?予備知識入れないで見たからビックリした。ここからの絵の質問からのラストの晴れ渡るシーン…近年観た映画でも最高峰の感動を味わいました。今年これを超える映画に出会えるかな。大傑作でした!