great兄やん

aftersun/アフターサンのgreat兄やんのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.3
【一言で言うと】
「答えなき“兆し”」

[あらすじ]
思春期真っただ中の11歳のソフィは、離れて暮らしている31歳の父親カラムと夏休みを過ごすため、トルコの閑散としたリゾート地にやってくる。二人はビデオカメラで互いを撮影し合い、親密な時間が流れる。20年後、当時の父の年齢になったソフィが映像を見返すと、そこには大人になって分かる父親の一面があった...。

“思い出”が残した悲痛な“真実”。大人に“なりたかった”娘と大人に“なってしまった”父親の残酷な対比にただただ胸が締め付けられた。

観ている最中どこか小津映画っぽいな🤔...という感触がしたがまさかの小津作品にインスパイアされて作られた作品とのこと。恐らくだが観る世代によって今作の感じ方も変わってくるだろうし、“ひと夏のバカンス”という普遍的な風景をここまでアーティスティックに描写したシャーロット・ウェルズ監督の卓越な手法に感服でしたね😌...

まずなんと言っても映像描写然り“伝える”部分というのがメチャクチャ繊細で、ぶっちゃけ言えば父親の抱える“何か”さえ分かれば事足りるようなプロットではあるが、それをあえて“語らない”というズルさ。特にそういった行間の空け方が絶妙に巧いのが今作最大の見どころだと思う。それくらい素晴らしかった。

それに主演であるポール・メスカルとフランキー・コリオの独特な距離感というのもまた絶妙で、父と娘という微笑ましい関係に見えれば大人と子供というシビアで儚い関係にも見えるという“二面性”を備えた存在感も見事でしたし、父親役のポール・メスカルに関してはその二面性に加えて“内面”に対する感情表現の表し方がマジで巧すぎる。アカデミー賞主演男優賞の受賞候補に挙がったのも本気で納得できる程のクオリティでしたね(゚o゚;;...

とにかく繊細かつノスタルジックな映像美に心を奪われると共に父の抱える”翳り“の正体を自ずと模索してしまう、限定的な夏の休暇に訪れる二人の静かな”確執“に言葉にならない感情を抱く一本でした。

観終わった直後はイマイチ掴みどころのない変な映画だと思っていたのですが、だんだん考えるにつれ”あのシーンはこうだったのでは🤔…“という奥深い読後感を味わえる演出は見事としか言えなかったですし、後半のクイーンの名曲“Under Pressure”をエモーショナルに使ったシーンはまさに必見。切なさと悲しさが同伴したような美しい演出でしたね😔

子供の頃にあった大人への“羨望”は、翻って大人への“不寛容”として残酷に突き刺さるもの。そしてその自覚なき“攻撃”はビデオという保存領域にいつまでも残り続ける“一生傷”に変貌するという辛さ...

いやはや…改めて考えてみると、なんとも自傷的な映画だなって思いましたね。なんとなくですけど。