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テリファー 終わらない惨劇のkuuのレビュー・感想・評価

3.6
『テリファー 終わらない惨劇』
原題 Terrifier 2 映倫区分 R18+
製作年 2022年。上映時間 138分。
ハロウィンの夜に現れたピエロ姿の殺人鬼アート・ザ・クラウンが巻き起こす惨劇を描いたホラー『テリファー』の続編。
脚本家、プロデューサー、特殊メイクアップアーティストとしても活動するデイミアン・レオーネ監督が前作に続いてメガホンを取った。
全米公開時には生々しいバイオレンスやホラー描写のため、鑑賞者に注意喚起がなされるなど話題を集めた。
また、今作品も完全に自主製作で、スタジオを介さずに複数の資金源から資金を調達し、脚本・監督のダミアン・レオーネはコスト削減のために特殊効果をすべて自作したそうな。
スタジオからの要求やカット要求がなかったため、暴力描写やグロ描写に妥協がなかった。
余談ばかりやけど、アートのフェイスメイクは、伝説的なパントマイマーだったマルセル・マルソーに似ている。
余談の余談ながら、マルソーはナチスの占領下を生き延び、第二次世界大戦で多くの子供たちを救った。 一言も発することなく観客を感動させる無類のパントマイムスタイルが評価され、"沈黙の達人 "として世界に知られたなら、こちらのアートは"沈黙の暗殺者"かな。

マイルズ・カウンティーの惨劇から1年後のハロウィン。
絶命したかにみえた連続殺人鬼のアート・ザ・クラウンが死体安置所で息を吹き返し、ふたたび街に現れた。
残虐性と冷酷さを増したクラウンは、父親を亡くしたシエナとジョナサンの姉弟を標的にし、ハロウィンでにぎわう街で一人また一人と犠牲者を生み出していく。

今作品では、アート・ザ・クラウンという名の切り裂き魔が、ポンポンのボタンがついたジェスター(中世ヨーロッパの宮廷道化師)のコスプレ?コスチュームを着て、白いハゲのハーレクイン・ヘッドカバーをかぶり、リコリス・ブラックの歯が凍り付いたようなにやにや笑いを浮かべ(文字どおり汚い口)、30年代の反ユダヤ風刺画に出てくるような鉤鼻を持ち、小さなトップハットを頭の横に傾け、血まみれの痴呆症のような態度で笑う。
アートのあの笑いは、将にマルセル・マルソーのように無言。
人を切り刻み、ノコギリで切り刻み、皮を剥いで解体し、顔に酸を浴びせる彼は、まるで、アウシュビッツで“死の天使”ヨーゼフ・メンゲレをチャネリングした野郎が、米国のピアニスト、リベラーチェをチャネリングするフレディ・クルーガーのように、様式化された喜びに満ちあふれている。
パントマイムが上手い。
他の俳優陣もこの御方の表現力を真似て、上手く演じてほしかった。
彼が血にまみれているとき、それは多くの場合そうなんやけど、そのニヤニヤした表情はいっそう輝きを増す。
デヴィッド・ハワード・ソーントンが演じるピエロのアートは、真の狂人のような陽気な雰囲気と素早い殺人的な動きで、道具箱の刃物(錆びたナイフ、ペンチ、弓ノコなどが無造作に山積みされている)を黒いゴミ袋に入れて持ち歩いている。
ホンでもって、被害者を何処までも追っかけ、そこで被害者の顔面をハンマーで殴り、呪われたような力で武器を振り下ろし、さらに殴り、目玉をくりぬいてそれを弄び、顔をこじ開ける。 こ
れが冒頭。
今作品は、観客に『やあ、元気かい?』てな感じの挨拶代わりなんかな。
正直、上映時間を短縮して、この挨拶のオンパレードを集中的に見せてくれたら、スプラッターの耐性がついてる小生には魅せられたかも。
特殊メイクのデザインも手がけたダミアン・レオーネが脚本と監督を務めた今作品は、真夜中のカルト映画として用意された、汚らわしい血の饗宴には間違いないんやけど。。。
今作品は、アートをアンダーグラウンド・ホラーのマスコットにしたレオーネの1作目『テリファイア』(2016年)から6年後に登場する。
だから期待は膨らんで今作品を視聴。
(正直、存在を忘れてて、TSUTAYAでふと思い出してレンタルしてきたんやけど)
ハロウィーンの夜を主な舞台とする今作品は、2時間18分にも及ぶ、冗長なホリデー・ホラー映画やった。
しかしそれは、ピエロのアートの騒乱哲学に多かれ少なかれ合致してはいる。
多ければ多いほどいい方もいるかな。
最近の『ハロウィン』の夜の惨劇系の映画では、70年代後半から80年代前半にかけてのスカスカのスラッシャー全盛期を実感させるものはなかった。
しかし、今作品ではそうなっており、それがある意味魅力のひとつとなってんのかな。 
映画はだらだらとしたテンポで、説明的なB級映画のような台詞、大げさなノーバジェット(銭が足らない)の演技、純粋な80年代初期のワンマンバンドのシンセポップ・スコア、雪が積もり続けるケーブルテレビ以前の古いテレビセット、さらにシエナという10代のヒロイン(この女優さん可愛いかなりトキめいた)が、まるで、昔の絶叫クイーンのよう。
ピエロのアートは無言やけど、不気味ないたずら好きで、ここ10年ほどの間に、エクストリーム・ホラーと呼ばれるジャンルに薄気味悪い創造的な火花が散ることがあったしペニーワイズのもっとファンタジックで陰惨な弟子になりそう。
トム・シックス監督による突拍子もないほど不快なユーロ・カーニバル『ムカデ人間』や、さらにサイコなショック・シアターの続編『ムカデ人間2(フルシークエンス)』など、多くのホラーマニアでさえ一線を画してしまうような映画や、批評家たちがこの手の映画を攻撃する際に使いがちな批評バットによって不当に酷評されてしまった、実際にはとてもゾッとするほどリアルな映画があった。
余談ばかり過ぎますが、今作品は、基本的に一連のグロテスクな殺人セットピースを、ミッドナイト・ファンハウスの陳腐な物語につなぎ合わせたもの。  
シエナがハロウィンのために翼の生えたワルキューレに変身するモンタージュでは、あのシンセ・ポップ・スコアが大活躍するが、この映画のほとんどが一連のスラッシャー・TikTokビデオになりそうなのは、怖がらせるための演出があまりなされていないともとれる。  
アート・ザ・クラウンが切り刻み、えぐり、皮を剥ぎ、バラバラにし、拷問する(ある場面では、被害者の傷口に文字通り塩をすり込む)シークエンスは、観客に連続殺人犯の運転席にいるような気分にさせるためのもので、非常に不穏な場所やった。
時折、今作品はシュールな展開になる。
アートには "友人 "がいる。
彼女は10歳の少女やったが、彼の犠牲者のひとりとなり、今では彼のグールネクストドア版のよう。
彼女は作り物であることもあれば、本物であることもある。
カミソリの刃や虫が入ったアートクリスピーというシリアルを食べる少年。  
ミミズやウジ虫や射出性の下痢のシーンがある。 大虐殺の生存者がテレビでインタビューを受けているのをアートが見るシーンがあるが、彼女が負った傷のためにひどく切り刻まれているのを見て、アートは苦笑してしまう。  
しかし、彼女に同情する必要はない。 
今作品では、『テリファイア3』の行く末を示す、マーベルのポスト・クレジットのティーザーに相当するスラッシャーが登場する。
ルーブ・ゴールドバーグ的な『ソウ』映画は、サディズムを巧妙なものに仕立て上げることがあるが、『テリファイア2』はサディズムを前面に押し出し、他の何かに訴えるような素振りは見せない。
そのため、この映画は自らの醜悪な興奮に正直な、稀有なスラッシャー映画と云えるかもしれない。
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