バルバワ

クリード 過去の逆襲のバルバワのレビュー・感想・評価

クリード 過去の逆襲(2023年製作の映画)
3.9
公開して次の日に見に行く予定が風邪を引いてしまい一週間延期、そしたら私の風邪が娘のバル子(仮名/4歳)にうつりさらに一週間延期となった今作の鑑賞。バル子の保護者会出席のため有給休暇を取った午前中に今作を観ることを妻が許可してくれたのでなんとか鑑賞することが出来ました(あと『ライオン少年』も一緒に鑑賞…今年ベスト級の作品でした!)。

いやぁ、脱却ゥ?

あらすじはとんでもなく順風満帆でセレブな生活を過ごしていた主人公アドニスを訪ねてきたのは昔の仲間のデミアン。彼によりアドニスが忘れたかった過去が呼び起こされる!…的な感じです。


【脱・男らしさ】
個人的に今作は脱却の物語だと考えており、3つの脱却が大きな鍵になっているとは思います。まぁ、その1つ1つに言いたいことはあるのですがね…

まず、監督がインタビューでも語っていた"男らしさからの脱却"です。ここでいう男らしさとは感情や気持ちを言葉にすることを弱さだと思い込んでいることです。

主人公アドニスのパートナーであるビアンカは常に「なんでも話して!」と何度も訴え、ある登場人物が亡くなるシーンを境にアドニスは泣きながら自分の気持ちを打ち明けます。このシーンは俳優さんの迫真の演技も相まって私は結構グッときたのですが、これが前述した"男らしさからの脱却"のきっかけにしか作用しておらず物語全体から観るとこのシーンが推進力となっているとは言い難く、ともすればこの為だけにある人物が亡くなったとしか思えませんでした。

【脱・過去】
アドニスと宿敵デミアンを巡る"過去からの脱却"です。お互いに二十年前の出来事に囚われて気持ちがこんがらがってます。

それは衣装1つとっても色や衣服のゴージャスさで二人の現在地や心情が表されていたり、アドニスとデミアンが進む道が分かれるということを壁を挟んだ目線の交錯や彼らが向かう先の照明で表現していたりと非常に細やかな演出で彼らの拗れた関係性が示唆されておりました。

そして、最後の最後に彼らは過去から解き放たれるのですが…その前にデミアンは落とし前つけないといけない件があるでしょう!なんの件か?ドラゴの息子さんの拳ですよ!

【脱・ロッキー】
最後は"ロッキーからの脱却"です。ここが私は1番言いたいことがあります!

まずはアドニス達が誰もロッキーの現在を語ろうとしないのですが、あれだけ世話になり一時は衣食住も共にした恩師が今何をしているかくらいはアドニスが話題に上げても良い気はします。

また、ロッキーがいないことが不自然な場面もあることが違和感に繋がっていると思います。作中ある登場人物の葬式のシーンがあるのですが、そこにロッキーがいないのは関係性として明らかにおかしい、これでは彼が薄情な人物に思えてしまいます。

しかし、これだけ徹底してロッキーのことを語ろうとしなかったり、賛否分かれるアニメ的表現を取り入れたりするのはロッキーから脱却のためには必要だった意欲的な演出や決断なのかもしれないとも思えなくもありません。だから物語の運び方やトレーニングモンタージュ、高いところで雄叫びなども「ロッキーっぽーい」と思ったこともその意欲や決断を以てして「仕方ないか」と納得することも出来ていたのですよ…あの曲が流れるまでは。
最後の試合の最終ラウンドで高らかに名曲ビル・コンティの《Going Distance》が流れるまでは。

いや、あれだけロッキーを排除しておいて(一応、スタローンはプロデューサーとしては名を連ねてはいますが)都合が良い時にこの曲を使うのはいくらなんでも筋が通ってないじゃあないですか?!私は全くもって納得出来ませんね!

まぁ、今回は参加していませんがルドヴィク・ゴランソンが作曲したあの音楽が最終試合後に流れると前述のした理由で怒ってたのに「うぐぅ…」と泣かされてしまいましたがね。え?病気?


【脱・クリードするのであれば】
私が今作で1番魅力的な登場人物はアドニスとビアンカの愛娘であるアマーラちゃんです。生まれつき耳が聞こえない彼女は父親の戦う姿を目の当たりにし、ボクシングに興味を持ちます。しかも、筋が良いし肝っ玉も座っているときたもんだ。

昨年の邦画の『ケイコ目を澄まして』でも耳の聞こえない女性のボクサーの素晴らしい作品があるので、"アマーラ"が製作されることを心待ちにしております。あ、それでもクリードか💦


【脱・文句】
なんか文句多めなレビューになりましたが、好きなところはしっかりありまして、ジョナサン・メジャーズ演じる宿敵デミアン。彼がどれくらい強いのか、そしてアドニスに教えた動きは何だったのかなど分かりにくい部分が多かったということはありますが、彼の腹に一物抱えている感じは非常に良かったです。あの全表情に怒りと悲しみを滲ませているのがイイッ!因みに彼のラフファイトは長寿ボクシング漫画《はじめの一歩》に出てくる牧野っぽかったです。

あと入場パフォーマンスの派手さは親父譲りのアドニスには口角が上がってしまいました。

【最後に】
個人的には『クリード チャンプを継ぐ男』は人生ベスト級に好きな作品、2作目の『クリードⅡ 炎の宿敵』はドラゴ親子の物語としては大好きだがアドニス、ロッキーの物語としては飲み込みづらいところが多い(特にロッキーの根性丸出し理論とアドニスとビアンカの赤ちゃん置き去り問題)作品でした。

そして、今作は主人公アドニス・クリード演じるマイケル・B・ジョーダン、初監督ということでインタビューでテーマや日本のアニメからの影響を熱く語っており、今作へのこだわりは目で観るより明らかでした。

しかし、そのこだわりがこれでもかと言うかのように観てとれるので「監督はこういうことしたかったんだなぁ(⁠・⁠∀⁠・⁠)ツタワル、ツタワル」とはなるということは常に作り手の意図に敏感になっているということで、物語に没入できなかったというのも事実でした。
要は監督の熱意がそのままスクリーンから飛び出した印象は拭えず「クリード3...D?」とくだらんことを考え付く始末でした。

このまま、クリードの物語が続けたいし、ユニバース化もしたいと語っていたマイケル・B・ジョーダン監督。もしもそのユニバースが本編にくっついていた短編アニメのような感じなら私はクリードから脱却してしまうかもしれません。
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