バルバワ

雄獅少年/ライオン少年のバルバワのレビュー・感想・評価

雄獅少年/ライオン少年(2021年製作の映画)
4.6
数少ない妻からの許されタンの機会、どの作品を観ようかとギリギリまで悩んでいたのですが観た方々の評価も高く「この映画は『ロッキー』だ!」というパワーワードも散見されたので『クリードⅢ 過去の逆襲』とセットで観るにはちょうど良い今作をチョイス!

いやぁ…こりゃ『ロッキー』だ。

あらすじは貧しく周りからも「ひ弱なネコ」とバカにされている主人公チュンはある日獅子舞と出会い、成長していく。…的な感じです!

【こりゃあ、皆観れるぜ】
人生に躓いている登場人物たちが人生に尊厳を取り戻す姿や、若者が心身共に成長していく姿をエモーショナルに描く今作。

中盤、主人公のチュンは名言量産機と化しており「じゃあ、何で泣いているんだ!」や「踏みつけられる為に生きているわけじゃない!」は本当に拳を握ってしまいました。また、エモさの後にギャグがしっかりとあるのも品が良いし、全体的にコミカルな要素が散りばめられていたのでもう観ている最中ニッコニコでした。

特にクライマックスの日本の国民的アニメに出てくる父ちゃんを彷彿する必殺技や泣きながら切符を破く友達などは大笑いしましたし、このコミカルな要素が笑わせるだけでなく、しっかりと登場人物を魅力も押し上げる作用もあるというこの周到っぷり!

また、登場人物を1つのステレオタイプに落とし込まずに我々同様に良い所もあれば悪い所もある人間として描いており、作り手の皆様が真剣に今作を結構熱かったです。ある種の敵役とされる人物もチュン達にとっては憧れの的であるという描写は結構新鮮でした。

そして、物語の幕が上がって1番に映るものと最後に出てくるものが登場人物の成長、今作のタイトルと密接に結びついており、もうこの手腕は見事と言わざるを得ませんッ!

このどこの誰が観ても楽しめるようなエンターテインメントっぷり、バル子や妻に観てほしいくらいです!

【こりゃあ、苦いぜ】
前述の通り今作は基本的に明るい物語であるのとパンフレットのインタビュー記事でもスン・ハイポン監督が徹底したリアリズムを意識していると明言している通りに苛酷な現実がチュンに襲いかかるという、世界の暗さもしっかりと描かれます。

ここの暗さったらもう観ていることがしんどくなるくらいなのですよ…しかし、その分終盤のチュンが屋上で自主練するシーン(ここのスピード感のあるカメラワークやビルと陽の光の演出が最高!)やクライマックスは、長く厳しい現実を生きていかなければならない中でほんの一瞬でも自分を開放することの喜びと渇望に溢れており目を奪われました。というかしんどかった分のカタルシスが半端ないッッ!

【こりゃあ、堪らんぜ】
冒頭でも書きました、作り手の皆様は意識されてはいないでしょうが今作のテーマが『ロッキー』を彷彿するという件、個人的にはめちゃくちゃ私のロッキーアンテナがビンビンでした!

主人公達が虎の目…いやさ獅子の目になった時には脳内で《EYE OF THE TIGER》が流れたし、クライマックスでチュンが何か勇気ある決断をする時には「人生にするか、しないかの分かれ道で"する"を選んだ勇気ある人達の物語です」という荻昌弘先生の『ロッキー』の伝説の名解説が過りました。あと、最後は主要登場人物の殆どが現地やTVの前で試合の行方を固唾を呑んで見守っているというのも私のロッキーアンテナをグワングワン震わせていました。

ここまで言うと『ロッキー』っぽい所で私が今作を好きだと思われるかもしれませんが、そうではなく人生を歩み直すの物語がとても、堪らなく、好きなのです。

何より、今作のエピローグの品の良さったらなくて、何か環境や境遇が大きく変わる訳ではないけど"自分は好きなことでベストを尽くした"という実感があれば胸を張って人生を歩んでいけるッッッ!!
そんな暗い現実を微かに、しかし確実に照らしてくれるような厳しく優しいメッセージを伝えてくれておりました!

【最後に】
欲を言うのであればチュンとトリオを組む二人マオとワン公の活躍をもっと観たかったですが、今作の題材である獅子舞を調べると後方のマオはユーモラスな演技や恐ろしいまでの体幹でいなくてはならないし、太鼓のワン公は舞のリズムや獅子の鼓動を表現していたりと彼ら二人が如何に大切であるかがわかりました。

あと師匠の奥さんの肝の座りっぷりが素晴らしかったです、また彼女には彼女の葛藤があるということが行動原理になっているということがちょっとした描写でよく分かり個人的には"都合の良い妻"には観えませんでした。
「優勝しなかったらぶっ叩く!」や「チュンがいなかったら荷物は持ち帰って来て」「アニキと呼びな!」は最高に痺れる台詞でした!

あとあと、何気冒頭の村の中のチェイスシーンのスピード感やコミカルさはジャッキー・チェンイズムを感じて一人で目頭が熱くなっていました。

本当に素晴らしく楽しく、地に足の着いた上品な作品。これは色んな人に観てほしいですし、もっともっと取り上げられても良いと思います!
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