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クリード 過去の逆襲のbackpackerのレビュー・感想・評価

クリード 過去の逆襲(2023年製作の映画)
3.0
︎『ロッキー』シリーズスピンオフ『クリード』シリーズ第3作

【作品情報】
公開日   :2023年5月26日(日本)
作品時間  :116分
監督    :マイケル・B・ジョーダン
製作総指揮 :セブ・オハニアン、ジンジ・クーグラー、ニコラス・スターン、アダム・ローゼンバーグ
製作    :アーウィン・ウィンクラー、チャールズ・ウィンクラー、ウィリアム・チャートフ、デヴィッド・ウィンクラー、ライアン・クーグラー、マイケル・B・ジョーダン、エリザベス・ラポーゾ、ジョナサン・グリックマン、シルヴェスター・スタローン
脚本    :キーナン・クーグラー、ザック・ベイリン
原案    :ライアン・クーグラー、キーナン・クーグラー、ザック・ベイリン
音楽    :ジョセフ・シャーリー
撮影    :クレイマー・モーゲンソー
出演    :マイケル・B・ジョーダン、テッサ・トンプソン、ジョナサン・メジャース、フィリシア・ラシャド、フロリアン・ムンテアヌ

【作品概要】
『クリード』シリーズ第3作。
主演のマイケル・B・ジョーダンの初監督作品であり、シルヴェスター・スタローン不在の作品という、野心的作品。
スライ不在の背景には、①物語の方向性の違い②プロデューサーのアーウィン・ウィンクラーとの対立、が原因とされており、特に②については、長年にわたり批判を展開している。91歳のウィンクラーと彼の「まぬけで使えない強欲な子供たち」を寄生虫と罵るスライは、本作のピースとはなり得なかったのだ。

【作品感想】
「SHINJIDAIの幕開けじゃ!」

まず、スライ不在問題と、それが炙り出した、アドニス・クリードの人間性の問題について。

アドニスは、幼い頃の施設生活やろくでなしの糞養父の下で共に過ごした兄貴分のデイミアンと、完全な絶縁状態にあります。
なぜなら、仮釈中のデイミアンがポリにパクられる時、自分一人で逃げ出したから。デイミアンは、アドニスが吹っかけた喧嘩で返り討ちにされているところを助けようとしたのに、アドニスは自分を置いて脱兎の逃げ。
これにより、"ダイヤモンド"デイムと呼ばれた天才ボクサー少年の夢は絶たれ、長い刑務所生活が始まります。
その間アドニスは、イイ感じの会社勤めからボクサーに転向し、チャンピオンとして一時代を築き上げました。
そりゃー、デイムにとっては、憤懣やるかたないでしょう。
で、やっとこショバに出てきた彼は、年齢というとんでもないことにハンディキャップを抱えながら、自分が得る筈だった栄光をその手にするために、邁進するのです。

さて、アドニスに話を戻します。
幼かったからこそ、ポリにパクられそうな恐怖に耐えかねて逃げ出したのは、仕方ないかもしれません。
でも、面会くらい行っても良かったでしょうね。そりゃ、デイムからの手紙をメアリー・アンに隠されていたから、接触しようがなかったのかもしれませんが。だとしても、綺麗さっぱり忘れ去るってのは、随分薄情じゃーないか。幼馴染で兄貴分で、随分仲良くやってたってのにさ。鞄持ちに使われてたけど。

そうして時が経ち、忘れさった過去が逆襲してくるわけです。これは何とも恐ろしい。
誰しもが、忘却している過去がいくつもあるもの。私なんて、ここ数年の出来事すら全く思い出せないこともザラにあります(だからこうしてレビューを残しているわけですが)。
そんな過去は、消せない呪縛となって、我が身に祟るのです。人間、他者に恨まれないよう、真っ当に生きていかなきゃですね。因果応報とはよく言ったもんです。

ツラツラ書きましたが、別にここは大切なところではないんです。
一番重要なのは、ロッキー・バルボアが、メアリー・アンの葬儀に出席していないこと。
ボクサー関係者がやたら出席する音楽業界のパーティ。
ロスの豪邸でのセレブ暮らし。
父アポロの所属したデルフォイ・ジムでの我が物顔。
元々が裕福な暮らしをしてきた毛並みの良い"美しい人・アドニス"には、友達がいません。出てこないだけかもしれませんが、上記デイミアンとの薄情なアレコレを踏まえると、友達がいるとは思えません。
アドニスって、実は結構ボッチなんですよね。その所以は、ロッキーとの関係性の断絶からも窺えてしまう。これは、スライの不在が故に明らかになってしまった、アドニスの可哀想な側面ですね。

(ロッキーは、ともかく人付き合いが得意で、友達は多め。流石に老境ということで、昔からの友達が皆んな他界してしまってはいるものの、交友関係という点ではアドニスとは比較にならない程丁寧に描写されています。
そんなロッキーが、メアリー・アンの葬儀に、来ていない!そんなバカな!
ガン再発でカナダの息子宅から動けないのかもしれませんが、それにしたって、ねえ?)

本作のトレーニングモンタージュに対して、正直かなーり微妙な印象を抱く原因も、スライ不在が要因となっていましたね。
なにせこれまでは、精神・肉体の両面を成長させてくれる筋道をつけてくれるのが、スライだったわけですから。
本作では、アドニスが自力で再起しようとするんですが、イマイチ盛り上がりにかけます。むしろ、クロスカットされるデイミアンの出来上がったマッシブボディに目を奪われ、年齢に負けず奪われたものを取り戻そうと努力する姿に、応援してやりたいなと思わされます。アドニスの成長は、トレーニングモンタージュからは全然伝わってきませんし、小型飛行機引っ張るロープがピンと張り詰めてなかったりで、結構冷めました。


とはいえ、日本アニメオマージュも意識された作風は、マイケル・B・ジョーダンの初監督"らしさ"がありましたし、アドニス・クリードの物語はどれも面白いものであったことも踏まえ、おそらく完結作であろうことを踏まえると、なんやかんや文句をつけることもないかな……なんて。

ま、SHINJIDAIについては、ね。温かい目で見守りましょう。
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