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日の丸~寺山修司40年目の挑発~のbackpackerのレビュー・感想・評価

3.0
"鑑賞後、漠然は確信に変わるー"

【備忘】
インタビュアーは、道行く人々に対し唐突に話しかけ、自らの身分がどこの誰それであると名乗りを上げることなく、矢継ぎ早に質問をぶつけていく。
「日の丸と言ったらまず何を思い出しますか」
「日の丸の赤は何を意味していますか」
「あなたに外国人の友達はいますか」
「もし戦争になったらあなたはその人と戦えますか」
「あなたにとって幸福とは何ですか」
いずれの質問も、一瞬答えに窮する問いかけだが、間髪を入れぬ質問攻勢で、インタビュイーに考える隙を与えない。
この怒涛の質問責めが暖け出させようとするのは、人々の中にある無意識の本音、染みついた感覚、凝り固まった常識。そこから見えてくるものは、何か。
敗戦を経験し、復興を遂げ、未来への希望を持って前進した”あの頃”(昭和30年代)の日本民族の、声に出されなかった本音は何だったのか。
戦争を知らず、生まれた時から不景気で、未来への希望を見失った"今"の日本人の、偽らざる本音は何なのか。
前衛劇作家・寺山修司が構成を手がけた1967年放送のTBSドキュメンタリー「日の丸」を現代に蘇らせ、今再び、日本人の正体に迫る……。


意欲的なテーマの作品を送り出すと同時に、「自社のライブラリーのバンクフィルムを使えば、予算を安く抑えつつ番組を1本作れる」という実利面でも優れた、TBSドキュメンタリー映画(TBSDOCS)という枠組みを初めて知ったが、旧来型マスメディアの一角として斜陽になりつつあるテレビ業界に根を張るテレビマンたちが、野心的で魅力のある多面的な作品を、今後も発表し続ける貴重なステージとして、今後もこの枠組みを活かして頑張っていただきたいところ。新聞やテレビからは、”大本営発表”のお仕着せな情報しか報じられないため、情報に懐疑的になると同時に、面白さが全くない。戦時下の体制から代わり映えしないどころか、監視社会として益々最悪になりつつある状況を思うと嘆かわしい限りだが、リスクを負って挑戦する姿勢を買くことを期待している。


終戦から約80年の歳月を経て、日本、日本人、日本民族は、天皇陛下の為に兵隊から銃後の女子供まで死んだ国民性から、政治・社会・他人に対し無関心な者の集合体となった。
村社会の強制力を失い元来の孤立主義的性質が露になっただけなのか、はたまた、他者との繋がりへの希薄化と将来不安に端を発する余裕の無さが原因か。
極論、国家の大勢に個の意思を反映する最大の機会=選挙にもいかない国民ばかりの現状は、生殺与奪を与党政治家連中に握られているに等しい。明日、突如として開戦し、徴兵され、戦地に向かうようなことにもなりかねないほど、強烈に軍拡基調へと舵取りしている現在の日本は、国防が外部要因に大いに左右されることを踏まえても、恐怖と絶望。未来への不安を、より色濃いものにする。
無関心な日本人のままでいることは、自分の首を絞め、家族・友人・大切なものを危機に晒しかねない。
だが、今、いくつもの鋭い質問が炙り出した国民性は、55年前の日本人たちのそれとは大いに異にしている。緩やかな衰退と穏やかな終末がセットで訪れるディストピアSFのようには、落着しそうにないことばかりが鮮明となった印象だ。

”情念の反動化”という力強い言霊が、凝り固まった常識、枠にはめられた普通、ありふれた平凡と思い込んでいた日常を、暴き立て抉り出し破壊する。もう一度、理性と知性に立ち返り、考えなくてはならない。
イカれてるのは、自分か、世界か。
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