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HOSHI 35 ホシクズのbackpackerのレビュー・感想・評価

HOSHI 35 ホシクズ(2023年製作の映画)
2.0
クラウドファンディング出資者として、無事映画が完成・公開されたこと、大変嬉しく思います。
平成特撮作品に親しんだ身としては、往年のメンバーが登場し"怪獣との対話・心の交流"というテーマに挑む姿勢も好ましかった。
しかし、個人的には、残念ながら、あまり面白くありませんでした。


特撮は金食い虫の極み。しかしてその伝統を、こうして受け継いでくれる存在がいること自体は賞賛すべきですが、忖度抜きで言わせてもらいます。

一番の問題は、造り込みの甘さ。
低予算映画故に安っぽいのは仕方がないとして、調査と再現の工夫次第で、ホンモノ感を補えそうな細部が、かなり稚拙なクオリティになっているのは、正直練り込み不足としか思えません。
結果、世界観の厚み・奥行きが無く、上辺を取り繕った空虚さばかりが、爛々と悪目立ちしています。
映画は、嘘っぽさを低減するために、見えない・描かれない・知る由もない所にも、注力しなければなりません。特撮映画なんて、観客を世界観に入り込ませる為、そこんところに大変な注力をしていることが、いつだってありありとわかるものです。
しかし、本作の登場人物が活動するコミュニティ及び使用される技術や専門性のある設定からは、世界観の根拠と真実味を裏付ける現実感が、全く滲み出ていませんでした。
ハッキリ言って、土台の作り込み、雑です。作品の屋台骨がグラグラと揺らいでいます。企画から脚本に起こし、調達と構築に目途をつけ、現場でカメラを回す時には土台の作り込みはできていてほしいのに、適当過ぎます本当に残念。
「リアリティライン高め目指して設定したら、時間も金もなくて〜」という理想論があったのかもしれませんが、マジで脚本に落とし込めてなかったとしか思えません。
もしかしたら、設計は相当に作り込んでいて、パンフ等には情報があったのかもしれません。でも、映像を通してサッパリ伝わらないとなると、他でのめり込めるような面白さを提供してくれなきゃ、擁護できないですよねぇ……。
完全に邪推ですが、とりあえず35周年記念企画と怪獣ホシクズの造形ありきで進んだら、細部不明のままおざなりになった、とか言うんじゃないでしょうね。自分の首を絞めあげ、肉片爆散させてますぜ。
ここまで背景を感じさせないスカスカなドラマ、いつ以来かしら……。


根を同じとする問題ですが、村描写についても気になります。
時代設定をいつ頃に置いているのかわかりませんが、おそらくオマージュ・リスペクトソースである平成ゴジラ・ガメラ等の作品の時期(80年代後半〜90年代)と見積もり、そこから35年経過→およそ現在ではないかと推測します。
しかし、それにしても、辺境の村の描写、村系ホラー映画異常に雑すぎませんか??
昭和初頭又は戦後70年代くらいまでの部落設定ならギリ「こんなもんか」と飲み込めるかもしれませんが(いや、やっぱ無理かな)、この作り込み度合いでは、説得力皆無。
特に、日々生きる為に必要な雑貨や食事等の、生活感や空気感が目で見える(もしくは目で見えるかのような演出)が無い、「人間の営み」要素が絶無の村には、本当に恐怖しました。わざとなのかもしれませんが、村自体に広がり・奥行きが感じられないので、全く
この点は、金がなくて美術は妥協(特殊美術に寄せた)したと忖度しますが、にしたって、これは、低みが過ぎる……。
村の虚構度合いは、作中群を抜いて不気味で、むしろ村系ホラーよりも圧倒的に悍ましいものでした。これでグレーディングがもっと冷たく暗くザラっと砂っぽかったりしたら、小便ちびったかも?


ついでにキャストの演技のお話も。
ぶっちゃけ、全員、物語から浮いてます。
これは、演技が下手で浮いてるとかではなく、単に現場で作り出した空気感が、映画で求めるリアリティと乖離しすぎていたから……なのかなぁ。なんか、もう、とにかく酷いって印象だったんですよね。
特に気になったのは、終盤、登場人物3人が35年前を懐かしみ湖の畔で話をするシーン。小高恵美演じるアキさんのバストアップになるんですが、後ろに立つ橋爪淳の手先が、彼女の頭の真横に来てしまうんですよね。だから自然と、手の演技に目が入ってしまうのですが、意味性が……一切……感じられない……泣。全く持って単なる手慰みの動きなのかもしれませんが、横でチラッチラ動かれると、ただでさえ辿々しい女性のセリフが、ますます耳に残りません。

いや、百歩譲って、演技は良かったとします。
でも、セリフが酷すぎるんですよ!なんだこの同じ内容のリフレイン会話!!
必死に水増ししたかのようなセリフで繰り広げられる、展開に寄与しない不毛な会話劇。
説明調のセリフばかりなのに、全然説明になっておらず、裏付けやエビデンスとして不十分。これは、前述の土台の作り込み不足によるスカスカ背景が原因でもありますが、それじゃー説明セリフの役割すら果たせないわけです。
例えば、"地質学研究所職員"の話。
公的機関や独法、もしくは学術研究機関と思われる大層な肩書きですが、なぜ、現地調査がこんなに杜撰なのでしょう。
現地人との協力体制構築に向けた下調べ・下準備なしで突撃するところも、公に近い組織に属する社会人のやることではありません。ロジの調整は、容易さの軽重あれど不可避なため、「時代が〜」という言い訳も無理筋です。もし、これが「いきなり行って現場判断」の特撮あるあるなスピード感演出ならば、全くハマっていません。
こういうところできめ細やかに演出することで、背景設定は密になり、物語の重厚さは増すはず。セリフにも深みを与え、世界観と登場人物の実存性を担保する鍵にもなります。
この点がおざなりなのは、本当にいただけません……。


上述のとおり、私が思うこの作品の問題の大元は、要するに「背景設定が映像の空気感に出力できてない」ということ。そのせいで、キャラの弱さやドラマの薄さも、益々際立っています。
作品の出来栄えが悪ければ、特撮ファンへの目配せも上滑りするというもの。正直、鼻白みます。

背景の作り込みが甘いと、全てに影響します。
ドラマ描写の積み重ねが雑だから、ドラマフォールも響かないし、なんなら怪獣の存在意義が怪しまれる始末。
観客が感情移入して見守る主人公としてのメインキャラが定まらず、一人ひとりの作り込みも甘いため、焦点がボヤけ、キャラクターアークを追うこともできません。群像劇にもならないため、マジでキツい。
心理描写も、役者の演技以外=空間を用いて醸し出す事ができないため、単調極まる。
葛藤構造も激弱過ぎて、構造も酷い。


正直、かな〜り厳しいことを言いますが、学生の自主制作とギリ同水準。金取れる代物じゃありません。
誰か指摘する人いなかったんですかね。プリプロ段階で杜撰だったとしか思えない作品ですよ泣
クラファンでちょびっと出資しただけの身ではありますが、この出来栄えには、失望を隠せません……。

ともあれ、幼い自分に特撮の楽しさを教えてくれたビッグコンテンツ『ゴジラ』シリーズで、三枝未希という巨大な十字架を背負った小高恵美さんを、スクリーンで再び拝見できたことに、感謝しましょう。
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