ヨーク

禁じられた遊びのヨークのレビュー・感想・評価

禁じられた遊び(2023年製作の映画)
3.6
『禁じられた遊び』といえば映画好きなら見たことがあるかどうかはともかくそのタイトルくらいは聞いたことがある名作であろう。無論、本作はそんな大多数の映画ファンが思い浮かべるルネ・クレマン監督の52年の作品である『禁じられた遊び』とは全く関係のないホラー映画である。ま、一応モチーフ的なネタはあるけど基本関係ない。
さらに言うと映画を観る前は「こんな映画(まだ観てないのに昨今の中田秀夫監督作に対する俺の偏見)に名作映画と全く同じタイトルを付けるとかどういうことだよ、今後ググったときとか面倒くさいだろ」くらいには思っていた。ちなみに昨今の監督作から鑑みるに「こんな映画」と書きましたが俺は『事故物件』も『”それ”がいる森』も結構好きです。当該作の感想文を読んでもらえばわかると思うが、ホラー映画としてはどうかと思うけどそれはそれとして楽しめたよ、という感じの感想を書いているはず。んで本作はどうだったかというと、ホラー映画としてはどうかと思うけどそれはそれとして面白い映画でしたね。
いやマジで面白かったんだよ。1ミリも怖くはなかったけど何というかな、心霊バトルコメディとかそんな感じの面白さは存分にあったので映画としては間違いなく面白かったですね。1ミリも怖くないっていうのはちょっと言い過ぎかもしれないな。5ミリくらいは怖かったです。特に女の情念的な怖さとか血の繋がりの宿命的な怖さとかはないこともなかった。でもまぁ全体的には怖くないよ。
お話は出だしがちょっと面白くて、場所は埼玉の郊外だったか、そこら辺に絵に書いたような幸せ家庭がいてパパとママと子供が3人で仲睦まじく暮らしていたんだけどある日親父がトカゲのしっぽを持ってきた息子に「その尻尾を地面に埋めて呪文を唱えたらトカゲの体が再生するんだぜ」って嘘を吹き込む。こういう子供をおちょくる目的の大人の嘘あるよね。俺は昔、親戚のガキにバウムクーヘンはお菓子の家的な感じでそういう木があるんだって吹き込んだことがあるからね。大人は暇潰しにそういうことをガキに言ってニヤニヤしたりするもんなんですよ。本作の親父もそれくらいのノリで子供にハッタリを言っただけなのだろうが、その子が実際に尻尾を埋めて呪文を唱えたら、なんと土の中からトカゲが出てきたではありませんか!? いやなんかの見間違いだろ…とそのときはスルーするのだが、後日とんでもない事件が起きて、何と交通事故でママが死亡し子供は意識不明の重体になってしまう。突然のことに茫然自失になるパパ。そんな折に奇跡的に回復した子供が母親の指を持ち出して「これを埋めて呪文を唱えたらお母さんが生き返る?」とくるわけである。生返事で「生き返るかもな…」と返すパパ。そしてそれを実行したことで恐ろしいことに…というお話です。
これが冒頭10分以内くらいなんだけど、中々いい出だしだよなーと思いますよ。どうせロクなことにはならないということだけは分かるが、この先どうなるか気になるもんね。そして本作がえらいのはその出だしから物語が何転もしつつ色んな方向に転がっていって全く飽きないということなのだ。ちなみに本作の主演である橋本環奈は上記したママではなくてパパのかつての同僚という役どころで出てくる。かつての、ということは今は全く別の職に就いていてパパと接点はないのだがママが亡くなった頃から心霊現象に悩まされるようになり徐々に物語に巻き込まれていくのである。またその過程でテレビのバラエティ的な心霊番組で胡散臭い除霊をやっている坊主とかも出てくるのだが、その坊主が実はちゃんとした能力者で退魔モノの霊能バトル的展開になりそうなシーンとかもあるのだ。見たことある人は少ないかもしれないがテレビドラマ版の『デビルサマナー』的な特撮バトルが展開されそうなシーン、具体的に言うと異様な気配を察知した坊主が西新宿みたいなとこを走ってる車を止めて降り、アシスタントのイケメン能力者と一緒に路上でいきなり九字を切り出すというシーンがあるんですよ。そのまま悪霊と戦い始めてそれはそれで面白かったと思うけど、本作はそっちには行かずにパパと橋本環奈のお話の方に戻っていくのである。
そのジェットコースター感というかオモチャ箱感というか、わちゃわちゃと色々な要素がたくさん出てくる感じがとても面白い映画でしたね。後半はホラー映画であることをすっかり忘れて完全にバトルものになってたからな。まぁ超能力バトル的な感じじゃなくて素人が必死で怪異から逃げる的な感じではあるのだが、そこにホラー的な怖さとかハラハラドキドキ感があるのかというとほぼ皆無で、なんというか漫画の『彼岸島』みたいなある意味牧歌的なシュールホラーコメディといった様相を呈してくるのである。そんなの面白いだろ。だから面白かったんだって! そんな感じなのでツッコみどころは無数にあって、ネタバレしない範囲で言うと、そもそもさぁ、その人じゃなくて車で轢いた相手を呪えよとか思うんだがそういうこと考えながら本作を観ても面白くはないです。そういう映画ではないので。
とはいえ全く怖くないのかというとそんなことはなく、上記したように結構嫌な感じの怖さは中盤くらいまではあるのでギリでホラーと言い切れる映画にはなっているであろう。いやー、こんだけのもん出てくるなら全然アリじゃないですかね。まぁホラー映画としてはもうちょい怖くしろよと思うところはあるが、トータルで面白かったのでいいのではないでしょうか。
ちなみに橋本環奈は劇場の予告編で見るたびに「この人働き過ぎだろ…ちょっと休んだほうがいいよ…」と思ってたんだけど、多分彼女が主演している映画は初めて観た。そしてこんだけ引っ張りだこになるのも分かったというか、特にホラー女優としては怖がってる顔が最高でしたね。しっとりしたドラマをやるとどうなるのかは知らんが、いい役者さんになるんじゃないかな。面白かったです。
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