ナツミ

怪物のナツミのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

予告編がなぜあんなホラー調やったのか謎。是枝監督と坂元脚本やからそっち方向ちゃうやろと思いつつ観に行ってきたら、やはり想像していた方向に傷付いて帰ってきた。

「怪物だーれだ?」
自分が怪物であるかどうかは他者からのヒントによってしか気付くことができない。

夫に先立たれ、気丈に頑張る母のふるまい。
不幸な事故で孫を失った校長先生。でもほんとは自分で轢いたんじゃない?
あの先生、生徒いじめてたんだって。火事の日、風俗店いたらしいよ〜。
私たち観客も現実と同じく、噂に振り回され、無責任な憶測を楽しみ、誰かの人生を消費する。
映画は便利だ、登場人物の孤独を描いてくれる。他人には見せない顔も大写しにしてくれる。
現実ではその光景を見ることはないし、想像もつかないそれぞれの事情は存在しないことになってしまう。私は今まで何度も取り返しのつかない過ちをおかしてきたんだと思う。他人にとって怪物であるのに、自分では全く気づいていない。そんな事が沢山あったんだろうなと恐ろしくなる。
美しいフレームの中に柔らかく収められたやるせなさ。真綿で絞められるような、穏やかな戦慄。是枝監督だな〜...

ラストシーンは、私は胸を握りつぶされるくらい辛かった。
台風一過で光に包まれた新しい世界で現在の自分たちを肯定し、走っていく先に制限はもう無いとしても、あまりにも幼すぎる。
それが救いになってはいけないんじゃないか、この泥臭いままならない世界の中で、一瞬でもあの光を照らせなかったのか?
なんであんなに美しいんだろう。それがどうしようもなく悲しい。気持ちの持っていく場所がなくて、どこにも行けない思いが漂っている感じ。
多分大人になったからこんなに辛く感じるんだと思う。多感な時期も過ぎて生きやすくなったし、飾らずに話せる人たちと過ごす時間や、理不尽を言われない生活を自分なりに手にすることができたから。
こっちだよ、おいでよ〜とあの列車を運転して、彼らをいつかの近未来都市に連れて行ってあげたかった。
きっと母や先生たちもそうしたかったんだろう。だけど、出来なかった。列車は土に埋もれ失われてしまった。

主演の方々はもちろん、脇を固める高畑充希、東京03角田もすごくよかった。
高畑充希が、ホリセン見捨てる時に興奮しそうなホリセンを宥めてキスでもしとくか、のシーンがリアルすぎて鳥肌たった。
ナツミ

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