ナツミ

ボーはおそれているのナツミのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ジャパンプレミアに行くことができました~。わーい。
アリ・アスター監督、笑顔がほんとにチャーミング。
ゲストの市川染五郎さんも生で見ることができて大興奮してしまった。冠者殿~!(鎌倉殿の13人)
彼は「アリ・アスター監督に訪れてほしい場所はありますか?」って訊かれて、奈良の長谷寺の十一面観世音菩薩立像を勧めてらして、私も行きたい!と思いました。たしかに巨大な観音像は監督も好きそう…。

監督は「私の内臓のなかをぐるぐる泳ぐような体験を楽しんで!」と仰っていましたが本当に目まぐるしい地獄めぐりでした。監督の胃腸が心配です。

テーマ的にはやっぱり家族の話を書いているのだけど、特に母との話。
母の痛みと共に誕生し、一人で生きていくことはできず「無償の愛」を搾取し続け、なにも見返りを与えない。散々愛情をむしり取って大きくなり、挙句の果てには母ではない他の女に愛情を注ぐようになる…
「こんなに幸せなの初めてだよ、ありがとう…」死の恐怖を感じながら、母に禁じられたセックスをした後ボウは笑顔を初めて見せる、初めて満ち足りた表情をする。大人になった彼に充足感を与えられるのは母ではないのだ。だがその瞬間生の喜びは死の恐怖に変わってしまう。母が蘇る…

私もかつて母の過干渉に悩み、罪悪感を抱きながら大人になった。
そんな時に出会った映画「田園に死す」は頭をカチ割られたかと思うほど衝撃的で、私の親離れ、一個人としての人生はそこから始まったんだと思う。
ある種の人間にとって、母殺しの物語は必要不可欠だ。
かつてその道を通った私にとって…ボウの冒険譚は恐怖の反芻、トラウマの録画再生だった。そして同時に母との思い出や子供時代は甘く恋しいものであり、母のなんてことのない表情が暗闇のなか次々と浮かび上がる様を子細に思い描くことができる。
人生は恐ろしい、不安と恐怖、孤独の連続だ。母の腕の中に居ることが窮屈になってしまっても、だからといって一人では不安だらけだ。
心を許した他人だって誤解、裏切り、死に別れ、そもそも存在すら怪しいそんな世界、めまぐるしくテイストを変える悪夢のような世界で生きていくしかない。
だけど人生は美しい。母とのなんでもない会話、運命的な恋愛、優しい他人の言葉、暖かい導き。
どんなにキラキラした恋愛映画やおとぎ話より、ここに描かれた一瞬のシーンがロマンチックで美しく、走馬灯のように駆け巡っていた。恐ろしいシーンは沢山あったのに、最終的に「美しい映画だったな」と思ってしまうのはなぜなんだろう。

ボウは罪悪感いっぱい、最後の審判で自分は裁かれると思っているんだろうが、「あまり自分を責めないで」。
お母さんはあなたを愛していたよ。お父さんは怪物なんかじゃないよ。あなたは生まれてきてよかったんだよ、と言いたくなるのは、やはり自分を重ねて観すぎてしまったのかなあ。

それにしてもことごとく母のシーンがリアルすぎてもう自分の母親の顔にしか見えなかったんやけど!!みんなもそうだよね?!?私が「悪い子」だっただけですか?なんか造形的にもちょっと似てる。髪、ウェーブやし。
怒らせたいわけじゃないのに怒らせてしまってでも自分としてはその選択肢しかなかったから、どうしようビエー!ゴメンナザイィ!とか、普通に親の事全く考えてなくて怒られるとかめっちゃあって、ボウに自分を重ねて有罪判決確実、あたしゃ地獄行きだなって切実に思うんですけど…
ラストで胸を張って自分はそんなことないって言える人間おるん?
なあ、ほんまに、生きるって怖いなあ。生きるも怖い死ぬも怖い、四苦八苦やなあ…。
いつも良いホラー映画見たら、ホラー映画好きの母親にも勧めてあーでもないこーでもない言うんやけど、今作はちょっと、もし勧めるなら訳も言わずに土下座しながらさりげなく勧める、ってことになるかな…うーん…裁かれたりして……。
ナツミ

ナツミ