英雄から殺人鬼へ


ストーリー
人助けをした際の動画が拡散され、ヒーローとして一躍時の人となった自由奔放なヒッチハイカーKAI。後に彼が逮捕されるまでを描くドキュメンタリー。


監督　コレットキャムデン


社会の闇を感じる
現代的殺人であり社会が作り出したモンスター。
最初は人を救ったヒーローとしてインタビューを受けるがどう観てもそれがヤバイ。
スマッシュ！スマッシュ！スマッシュ！

しかし、マスコミの力によってSNSによって英雄として祭り上げられ、ジミーキンメルライブなど出演。
世界から注目されるも、その裏側ではKAIという人物を追い彼の近くにいた人たちからの証言は衝撃。
あれ？こいつヤバい！と気づき始めるメディアの様相がリアル。これが英雄を作りたがる社会の闇。
これがマジなのが怖いしKAIの人物を知ることも怖くなる。
様々な人物達の私情意見が出てくるがどれも信用できないと思わせる、それくらい全てがマスコミによる印象操作なのではないか？これもドキュメンタリーではないのでは？と疑ってしまう。
それがリアルなのだとしても。
面白いというよりとんでもないものを観たなって感じ。

麻薬でハイになり通り魔になった男に襲われていた女性を救ったことでメディアの寵児になったヒッチハイカー・カイ。
所持していた手斧🪓で犯人を撃退したセンセーションとキュートなルックスと人好きのする明るいキャラは万人受けし、事件後のインタビューはネットミーム化して拡散され続けた。
そうなるとメジャーなメディアもカイを放っては置かない。瞬く間に人気トークショーに出演し人気はさらにスケールする。
しかし、その直後、カイは殺人容疑逮捕され裁判で懲役57年の刑を受けること。話題になったインタビュー動画がアップされてから逮捕まで3ヶ月だった。

あまりに急転直下な展開にまず驚くけど、それよりカイのキャラクターの強烈さが印象的。
タイトルはヒッチハイカーとなってるけど、本作ではホームレスと言われてる。住所がなく大きなリュックとスケボー🛹だけで放浪してるからホームレスの方が的確なんだろうな。
でも、服もきれいだし整ったロン毛はホームレスというより旅人に見える。
カイは自由気儘に放浪して仲間ができるとスケボーや大麻やってハッピーに生きる風来坊、自分も何も所持してないが自分より貧しいホームレスに物を分け与える慈悲深さもある。
インタビューでも「人はみんな尊重されるべき存在だ、容姿や能力に関係なく」と博愛主義的な発言していて、なんと言うか寓話的な存在に見えた。心優しく勇敢な風来坊、どの国でも愛されるキャラだよね。カイはギターも弾けて作曲し、歌唱力もある。本当によくこんな魅力的な男がいたなって感じ。人気者になるのがよくわかる。

しかし、前述のようにカイは殺人容疑で逮捕される。カイは相手（70代の男性）が自分をレイプしようとしたから正当防衛だと刑が確定した今も主張している。
これをどう取るかでカイの印象は分かれる。自由気儘でハッピーと思われたカイだったけど、育った家庭で長時間監禁される虐待的な環境で過ごし、問題のある少年向けの施設で思春期を送り、ホームレス（旅人）生活になる。未成年のホームレスには危険が多く身を守るために何回も暴力沙汰を起こしたらしい。この時期に男にレイプされたことがあると語っている。最初にヒッチハイカーが何で手斧🪓なんか持ってるのか不思議だったけど、こういう背景からなんだと合点がいった。
「自分が攻撃されてると思うと瞬時に狂暴になることがあった」とカイの従兄弟は語る。
この辺の一連のエピソードを見るとカイは本来的な意味の安心感や肯定感を持てなくて、その不安から過度の暴力を行使してしまう病理を持ってしまった人間のような気がした。
実際、カイのインタビュー・シーンを見るとその収まりのうまくいかない人特有の浮わついて不安定な感じがよく出てる。単にユニークにも見えるけど、カイの過去を知ってからだと不穏で哀れにも見える。

実際、カイに殺された男性がレイプしようとしたかはわからない。カイが過去のトラウマを彼に見てしまって"防衛"に走ってしまったのかも知れない。
いずれにしてもカイは理解不能なサイコパスではなく、ケアされるべき時にケアされず放置された結果破綻させられた不幸な人に思えた。社会福祉の不作為の犠牲者なんじゃないかと。

ん〜ちょっとコレ闇が深すぎる！！！

お話は2013年2月、カリフォルニア州フレズノで起こった事件から始まる。自らをジーザス・クライストと称する巨漢の白人男性が、車を暴走させ黒人の男性を負傷させる。目撃した女の人が助けようとすると巨漢の男は車から出てきてこの女性を襲う。するとそこに「ヒッチハイカーのような男」が手斧を持って現れ、巨漢の男から女性を救った。

事件現場に駆けつけたTVレポーターのジェセップは、このヒッチハイカーが現場付近にいるのを見かけてインタビューすると、カイと名乗り、自分が犯人を攻撃したという。ジェセップがこのインタビューをYoutubeに投稿すると、数百万回再生され、カイはヒーローとしてYoutube界隈でもてはやされる。

アメリカのトークショウって日本で見れるんでしたっけ？最初にカイを取り上げたトークショウ・ホストはスティーブン・コーヴェットで「ホームレスのヒッチハイカーが手斧を持っていることに感謝する日が来るなんて」と、「ちょっとこれおかしくない？」って取り上げ方をしているんだけど、その次にとり上げたジミー・キンメルは、完全にカイをヒーロー扱いで、サーフボードとウェットスーツをプレセントしたりしている。

ほんと最近は、こういうメインストリームのトークショウなども、ネットで話題になるものを調べて取り上げるので、こういう人が有名になるのも早い。

カイはヒッチハイクでフラフラ色んなところに出没し、そのたびにYoutubeやインスタや色んなSNSに登場する。フレズノの事件がバズった後は「ファン」もでき、車で迎えに来てくれて泊めてくれたりなど、ホームレス・ヒッチハイカー生活も充実（？）する。

しかしそれから一年あまりで、カイが泊めてくれた73歳の男性を殺害して逃げ回っているらしい、って話になり、SNSやメインストリーム・メディアでカイをヒーローとして持ち上げた人たちに「もっと慎重になるべきだったんじゃないの？」って話が方向転換してくる。

最初のフレズノの事件現場でのインタビューから、なんかおかしい感じしたけど、それは今だから言えることなのかな？スティーヴン・コーヴェットが指摘したとおり、手斧を持ってるホームレスっておかしいし、しかも犯人を殴ったことを描写する仕方が、ちょっとおかしいよね。

でも、フリースピリットで自由に生きているからちょっとぶっ飛んでるのかな？なんて見方もできるだろうし、あ、あと、ギターや歌がうまいので、アーティストタイプの浮世離れした人って感じで、若い子たちは単純に「いい！」って思ってしまうかも。

73歳の男性を殺害した理由は、泊めてくれるって言うから着いて行ったら、薬を盛られてレイプされたからだって。

どうも、現場の状況を見るとこの73歳の男性がカイを泊めて上げたのは、そういう行為をしたかったからだった、ってのは本当なんじゃないかと思う。ウィキでは、警察はカイとこの男性は同意のもとでセックスしたと断定したと書いてあったけど、私もそう思う。

このカイって人、ずーっと若い頃からこういう生活してきたんだから、こういう目に遭ったこと数しれずあると思うのよね。それがバズって有名になって、男娼のようなことをしなくても泊めてくれる「ファン」ができたのに、まだこういうことさせられるのかと、最初は同意したけど、あとで腹立ってきたのかなと。

カイをTVに出そうと奔走していたTV関係者の人たちは、実際のカイはちょっと頭おかしいし、怖かったと言っていて、暴力的な素養があったらしい。

そしたら、カイが小さい時性的虐待を受けたとか喋っているビデオが実は存在したり、そういう幼少期の経験でちょっと頭おかしいと示唆される部分もある。

なのに、カイの母親がインタビューに出てくる！！！で、「虐待したわけではない」と状況を落ち着いて説明しているんだけど、まあ確かにこの説明はおかしくないんだけど、自分の息子が何年もホームレスで、しかも殺人を犯したのに全く動揺していないのが奇妙！

さらに、最初のフレズノの事件、黒人男性に車が突っ込んだとき、カイは巨漢の男の車の助手席に乗ってたことが裁判で明らかになる！巨漢の男とヤクをやっていたらしい！！

そんな感じでどんどん雪だるま式に話がおかしな方向に行くのですごい興味を惹かれた。

可哀想なのは一番最初にフレスノの事件でカイをインタビューしたTVレポーターで、彼はもともとスポーツ担当だったのに、人手が足りないからと駆り出された一番最初のレポートの仕事がこのカイの事件で、カイのインタビューをYoutubeに載せたことから彼が「メディアでのカイの代理人」みたいな形になったので、カイが殺人事件で捕まったときにはすんごい数のメールやコメントが来たらしい。

この人は、カイにいい印象しか持ってなくて、未だに信じられないと思っているらしい。後から「こういう兆候があったじゃないか」ってツッコまれたりしているんだけど、そりゃ後からはなんでも言えるけど、当時は全くそんな風に思ったことはなく、今ツッコまれると「そうだよね」って思うようなことでも、やっぱりすんなり飲み込めないらしい。

いや〜、今の世の中怖いなあ、ってか、世の中の怖さは変わっていないんだろうけど、SNSで全部表に出てくるようになったんだなあって思った。