ゲイリーゲイリー

ザ・キラーのゲイリーゲイリーのレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
3.5
デビッド・フィンチャー作品史上最も自己言及的側面が強い作品である。
殺し屋の復讐劇という一見シンプルな物語だが、その実フィンチャー自身の仕事術が描かれているのだ。

計画通りに。即興はするな。誰も信じるな。自分だけを信じて、常に先の展開を予測せよ。相手を優位に立たせるな。対価に見合う戦いだけに臨め。感情移入は禁物。
何度も何度も繰り返されるモノローグは、自身に言い聞かせているかのよう。
全てを計画通りに寸分の狂いもなく正確に遂行しようとする強迫観念は、完璧主義者で知られるフィンチャーそのものではないか。

ターゲットの暗殺に失敗したことで物語は動き始めるのだが、これもまたフィンチャーのキャリアと重なる(興行的に失敗した「エイリアン3」が彼の長編デビュー作)。
そして、一度失敗してしまえば組織の後ろ盾が何一つ期待できない殺し屋稼業と映画監督もリンクする。
しかし手掛けたのはフィンチャーだ。ただ自己投影するだけでは終わらない。

現代社会批評的観点に加え自己批判的観点を物語の根幹に添えており、「ファイト・クラブ」や「ソーシャル・ネットワーク」といった過去作同様、現代社会において自身を自由であり特別であると自己暗示する男の滑稽さが描かれている。
殺し屋の抱える自己矛盾や滑稽さを端的に表したのが、ティルダ・スウィントン演じるキャラクターが語った寓話だろう。
理想と現実、目的と手段の狭間で揺れ動き続ける彼は、休暇や報酬と仕事での達成感が逆転していく現代人たちのワーカーホリック性をも投影しているのではないか。
フィンチャーにはこのままずっと、社会を人を嘲笑い続けてほしい。