ゲイリーゲイリー

バービーのゲイリーゲイリーのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.0
あのグレタ・ガーウィグがバービー人形を映画化。
と聞いて、当時私は一抹の不安を覚えた。
バービー人形を題材とするのであれば、エンタメ性の高い作品を求められるのは必須。
老若男女問わず幅広い客層に受け入れられる作品を求められることで、「レディ・バード」「ストーリー・オブ・マイライフ」といった素晴らしい作品を世に送り出してきた彼女の作家性が薄まるのではないかと。

しかしそれは杞憂に終わる。
本作はコメディ要素満載でありながらも、家父長制を批判し(マテル社もしっかりと揶揄する)、今なお女性を縛り付けるダブルバインドやマンスプレイングを言語化し可視化することに成功している。
そう、グレタ・ガーウィグはフェミニズムを推進させ、かつ多くの人が鑑賞したくなるような娯楽性の高い作品を生み出したのだ。

と言いつつも、思わず首をかしげてしまう描写がなかったわけではない。
例えば、ケンが現実社会に感化されバービーランドを男性優位社会へと変えたシーン。
ケンに洗脳されたことでバービーたちは、食事や飲み物の用意、マッサージなどのケアワークに徹するわけだが、これは職業差別に繋がりかねないのではないか。
大統領や弁護士といった"華やかな"職業に就くバービーが洗脳されたことで、ケアワークに就く。
つまりケアワーカーたちが男性優位社会を受け入れている、とも受け取れかねない。
本来男性優位社会を受け入れるか否か、に職業など一切関係ないにもかかわらず、だ。

そういった粗さは多少あったものの、男女の対立構造そのものに批評的な眼差しを向け、
「女」だから「男」だから「バービー」だから「ケン」だから、といった生きづらさを抱える必要はないというメッセージには心動かされた。
ありのままの自分でいいのだ、と背中を押してくれる温かなメッセージを多くの人が受け取ったことは非常に意義深い。
本作鑑賞を機に一人でも多くの人が、今なお横行している性差に基づく社会的抑圧に気付けるようになれればと思う。