ゲイリーゲイリー

TALK TO ME/トーク・トゥ・ミーのゲイリーゲイリーのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

現代の若者たちが抱える、不安感、心許なさ、孤独、空虚さ。
そうした心理描写に加え、狂騒的で危険を孕んだ憑依ゲームがSNSで拡散する様や、そうした「ノリ」に乗っからないとコミュニティから排除されてしまうのではないか(FOMO)という恐怖は他人事ではないはず。
そう、本作は手垢の付きまくった心霊ホラーを若者たちの視点で再構築し成功を収めたのだ。

主人公であるミアは母を失い、その傷口を埋めようと他者に依存する傾向がある。
SNSを通じ常時他者と接続することにより、表面的かつ生温い繋がりで現実逃避を試みる私たちの投影でもある彼女は、自らの不安や悲しみに対峙しない。
父との会話の断絶や、ドラッグを想起させる(憑依ゲームへの恐怖感と、それに耐え切った先に訪れる高揚感、そしてその経験が通過儀礼と化しているのもドラッグのそれと類似している)憑依ゲームに没頭していく描写からも、彼女が本当に目を向けるべきこと対話すべきことから逃れ、承認欲求を満たすことが目的化してしまっていることが窺える。
だからこそ、人との繋がりを過剰に求める彼女が「手」を握るというアイディアは理に適っているし、本作のテーマの象徴とも言えるのではないか。

加えて、本作の特筆すべき点として、宗教色の排除が挙げられる。
描写だけで言えば悪魔と受け取れなくもないが、それでもキリスト教や十字架など、神に祈るというシーンも出てこない。
キリスト教を土台としたホラー映画が散見される中、本作のように宗教に関連する描写を排することで、前提知識を必要とせずどんなバックボーンの人間であれ平等に作品を味わうことができる(そうした作品だからこそ興行的にも成功を収めることができたのでは)。

承認欲求を助長するSNS、宗教色の排除、そしてメンタルヘルスも本作の重要な要素となっている。
物語の序盤でミアは、事故にあったカンガルーを楽にさせてあげるため殺そうと提案されるが、母を失った彼女は命を奪う行為が救いだとは思えず、その場を立ち去ることを選ぶ(結果的に彼女のこの思考がライリーの命を救うことになるのだが)。
また、彼女は母の死について父と対話することを避けており、自身の抱える心の傷を誰にも打ち明けることなく一人で抱え込んでいるのだ。
このように彼女が「逃避」を選択したことで悲劇へと繋がっていくのだが、それを防ぐためには誰かに助けを求め、誰かに打ち明けるべきだったのだろう(「Talk To Me」というタイトルも示唆的だ)。