ゲイリーゲイリー

哀れなるものたちのゲイリーゲイリーのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.5
本作は「バービー」同様、支配下に置かれていた被造物(実験体・玩具)が社会やジェンダー構造という檻の中で、何人たりとも私を所有・支配できないという事を高らかに宣言する。
女性を所有物として扱う男性中心社会の価値観に対し、ベラを通じて破壊と解放を行うのだ(何かの支配下、何かに縛られているものを描いてきたヨルゴス・ランティモスが破壊と解放を描くという点も特筆に値する)。
私という存在を自身で定義し、私という存在の所有者は私だと信じて疑わないベラはどこまでも逞しく美しい。

物語の冒頭、操り人形のようにぎこちなく歩くベラがモノクロかつ魚眼レンズによって映し出される。
顕微鏡か何かで観察しているかのような映像は、彼女の人生が歪んだ父性によって支配されているさまと彼女の閉そく感を端的に表現している。
そんな無味乾燥な屋敷の生活から一変、ダンカンと共に世界を旅する彼女は、世界をモノクロではなく極彩色に染まったものとして再認識する。
初めて世界の美しさ、耽美さを知るのだ。

彼女が思っていた以上に世界は広大で、神秘的で、魅惑的で、そして残酷だった。
マーサとハリーの出会いを経て世界の残酷さと学ぶことの楽しさを知った彼女は、世界のために自分に何ができるのかを探究する。
これまで以上に能動的に知識を吸収していく彼女に対し、男たちは取り乱し彼女の自由と成長を糾弾し、受け入れない。
性欲、独占欲、所有欲、歪んだ父性など、ベラを欲求の捌け口として扱ってきた彼らには到底受け入れ難いことだったのだろう。
そんな彼らはとても「哀れ」で、彼らが盲信する家父長制そのものも「哀れ」だ。

https://note.com/hal858/n/nd137fcf0033e