ゲイリーゲイリー

aftersun/アフターサンのゲイリーゲイリーのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
3.0
11歳の少女•ソフィとその父•カラム。
本作は彼らのひと夏を通して、父と娘の関係性や親子の普遍的なドラマを描くにとどまらず、曖昧模糊とした記憶と今現在の感情とが結びつくその瞬間を見事に表現しきっている。
当時とは異なる視点や感情が湧き起こることで過去を再解釈再定義するという誰もが一度は経験したことのあるであろう、あの感覚を余白たっぷりに描いているからこそ、ここまで強く共感し、心揺さぶられるのだ。

また、本作では「記憶」だけが過去と現在の架け橋になるわけではなく、小型ビデオカメラという「記録」もその一端を担う。
主観と客観という両軸で過去を見つめ直すという構成が非常に巧く、ソフィが小型ビデオカメラをテレビの前に置くという、記録から記憶につながるシーンなど見事と言う他ない。

記憶と記録から当時の父が何を抱えていたのかを少しでも知ろうとするソフィ。
カラムの背景が語られることはないものの、彼が深い悲しみや苦しみを内包しており希死念慮さえをも抱いているであろうことは、彼の眼差しや言動から読み取れる。
そしておそらくそれは当時のソフィも薄々勘付いているに違いない。

しかしそれを言語化する術を知らず、またそれを口にしてしまうと楽しいこの旅が終わってしまうのではないかという恐れから彼女は時として精一杯子供らしく振る舞う。
一方のカラムも、悲しみや苦しみに襲われつつもソフィにとって最高の父親であろうと背伸びをする。
旅特有の高揚感と寂寥感という矛盾する感情が内包しうるように、相反する感情に気付かぬふりをし、互いのためにこの夏を最高のものにしようとする様は非常に痛々しい。

「大人になりたい」という願望を抱えたソフィと、大人になってしまった自分に焦燥感を抱き失望しているカラム。
彼らのこの思いは決して交わることはなく、真の意味で理解はできないかもしれない。
それでも互いに手を取り共に踊ることはできる。
人と人はどれだけ互いを思いやり愛し合っても真の意味で相手を理解しきることはできないという虚しい事実と、それでも互いのことを思いやるという尊さを突きつけられ胸がヒリヒリさせられた。
また個人的には音楽の使い方(「Under Pressure」が流れるシーン)も今年ベスト級に見事だと感じた。