コンテナ店子

コット、はじまりの夏のコンテナ店子のレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
4.0
 この映画を配給したネオンはすごく好きな映画配給会社です。そんな会社がアート寄りの映画を配給したと聞いてかなり期待をしてこの映画を見に行きましたが、率直な感想としては、期待通りかなりの満足度を得ることが出来ました。

 この作品はほとんどストーリーと言える物がなくて、ただ1人の子供が祖父母と接している様子を捉えただけの映画です。それに、キャラクターが生活しているだけのシーンがこの映画の尺をほとんど占めています。なので、人によってはこの映画を退屈な作品と思うかもしれません。
 ただ、細かい動作であったり表情から、にじみ出る人間性や喜怒哀楽、そして子供と祖父母が接していく中で生まれた友情を感じ取ることが出来ました。なので、彼らがどうして仲がいいのかという所に強い説得力を感じます。
 ピンチな状況を助けてもらったつり橋効果で仲良くなることがアクション映画でよくありますが、個人的にはそう言うシーンにあまり共感を持てません。この映画のように、最初は距離が遠いところから少しずつ近づいていく過程をしっかりと描いていく方が説得力があります。個人的にはその部分を存分に楽しめました。

 また、祖父母のキャラクターもすごく好きでした。ただ少女を甘やかすだけの存在じゃないのがいいです。厳しい所はしっかりとルールを守り、優しく接する必要があるときだけそうするというすごくリアルな大人として描かれていました。
 その結果として、シーンによって色んな側面を見ることが出来ます。ただ本当の人間はそうです。接している状況であったり相手であったりによって対応や様子が違くて当然です。この映画はずっと主人公の少女を追いかけている映画ですし、キャラクターの喜怒哀楽がそこまで表に出なくて、本当の人間らしいドラマチックなことをしない人であっても、その世界観が本当の世壊にしか見えないので、一切退屈には感じませんでした。

 後は撮影や照明が素晴らしかったです。映画のトーンを美しく表現できていたと思います。主人公の演技もいいですが、それ以上に個人的にはこの点が好きでした。

 強いて好きじゃないところを1つ挙げるとすれば、1か所だけホントに細かいシーンなんですけど、ちょっと視聴者にこういうことだよと説明してしまっているセリフがありました。他の所は何も説明せずにただただ映しているだけなのに、そこだけキャラクターの状況を明らかに説明しているので、映画全体の中でかなり浮いているように見えました。

 娘と祖父母が生活している様子をただ描いただけの映画なので、退屈に感じる人も多いとは思います。なので好みは別れるとは思いますが、映画好きに向けた映画だと思います。「燃ゆる女の肖像」等ネオン配給映画が好きな人は絶対この映画も気に入るはずです。
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