話の設定的にかなり気に入りそうだなと思ってかなりの期待を寄せてこの映画を見に行きました。率直な感想を言うと、想像以上に素晴らしく、おそらく今年の映画でも1番なんじゃないかと思うくらいの傑作でした。
何よりも撮影が素晴らしいです。さっきレビューを書いた「落下の解剖学」でも撮影が良かったといいましたが、それと比べ物にならないくらいこの映画は撮影が素晴らしいです。アカデミー賞でも音響部門で受賞していますし、この映画を見る前に映画評論家みたいな人のトークショーがあって、その中でも音響に注目と言っていましたが、個人的には撮影が最もいいと思いました。
映画の脚本のほとんどがこの映画の本筋と関係ないので、撮影で行える抽象表現と音響だけでこの映画の本筋を伝えようとしているのですが、その部分に置いてより優れていたのは前者です。
ずっと部屋の様子を定点カメラみたいにカット以外で動かない撮影を行っていて、その上恐らく映画の世界の中にある光だけしか照明を使っていなかったです。そのため、終始画面の端の方が暗い上にフルカラーでおしゃれな家に住んでいるはずなのに色が薄くずっと不気味な雰囲気が漂っていて、緊張感がありいい意味で居心地が悪かったです。
キャラクターたちは楽しそうに日常を楽しんでいるのに映像はどんよりとしていることで彼らのサイコパス感を強調出来ていますし、その不気味さが個人的には最高でした。
映像1つ1つの抽象表現も素晴らしいです。脚本は面白い所なんか1つもないですが、それでも要所要所でその異常さを映し方で表現していることが多く、一切退屈することはないです。映っている物全てがずっと興味深かったです。
後は上でも言いましたが音響も素晴らしいです。アウシュビッツのすぐ横と聞くとみんな叫び声とかを想像すると思いますが、外から人の声はほとんどしなかったように感じます。人の声なしなのにそれでも何を表現したいのか直接的に伝わっていたと思います。
上手く説明できないですが、説明どころか人の言語を使わずに音だけで起きている物事を表現していて、他の映画では全くできない体験を味わうことが出来たように感じます。
映像と音響だけで映画の本筋を説明した映画なのでそれ以外に言うことがないですが、その部分に全力が注がれています。アートな作品が大好きな自分にとってはそれが最高でした。ずっと知的な体験が出来たし、すごく気持ちが落ち込むような映画で、映画館でこんなにも満足感を味わったのは久しぶりです。
まだオッペンハイマーを見れていないですが、個人的には今の所今年のアカデミー賞の中で一番の傑作だと思います。
