アカデミー賞前夜の特別上映。TOHO日比谷12番の大スクリーンにて贅沢鑑賞。
主要人物3人だけの世界を描いた非常にパーソナルな作品。そのためアカデミー賞作品賞ノミネートの10本の中では、社会的メッセージの観点からすると及ばず。時代性においても、今この時代だからこその必然性は弱いかもしれない。
しかしこの映画、カフェで隣りのテーブルに座る見知らぬ誰かの人生にふと思いを馳せ、その人の過去の恋愛の喜びや痛みに寄り添う懐の深い作品になっている。きっと誰もが過去に経験した誰かへの片想いや憧れ、かけがえのない絆、相手に自分はふさわしくないのではないかという不安…、そうした経験を思い起こさせながら肯定してくれるのだ。
主人公グレタ・リーの、こういう恋愛映画の定型にハマらない凛々しく自立したキャラクターが素晴らしかった。すべての場面において彼女の聡明さが伝わるし、どのショットでも画になる。
『ファースト・カウ』でも素晴らしかったジョン・マガロの役柄も本作には欠かせず、彼だからこそ成立したとも言える。
パーソナルな物語でありながら、韓国からNYへと舞台が移り、アジア系移民や国際結婚についての描写もささやかながら丁寧に描写していて、普遍的なドラマ性も兼ね備えており脚本が見事だった。
恋愛映画というジャンルにおさまらず、エッセンスとしては『Once/ダブリンの街角で』を思わせる人間ドラマの秀作。
こういう作品が、アメリカで評価され、アカデミー賞作品賞・脚本賞にノミネートされたことが喜ばしい。