マティス

SCRAPPER/スクラッパーのマティスのネタバレレビュー・内容・結末

SCRAPPER/スクラッパー(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 機内で観た。小品だったが何か心惹かれる作品。何故なんだろう?

 娘が生まれた時に、妻と娘を捨てて出奔した30才ぐらいの父親ジェイスンが、妻の死を機に帰って来て、12才の女の子ジョージィとの関係を修復していく物語。
 親はこうあるべきだ、みたいな押し付けがましさがなく、父親も娘も自然体の演技だ。
 普通に考えれば、自分の母と自分を捨てて出て行ったジェイスンを、ジョージィはなじっても良いと思うが、そうはしない。もちろん言いはするのだが、「(3人の生活を守ろうと)努力しなかったのでしょ。」という感じの言葉で、詰問というのとは違う感じだった。
 それは諦観とか諦念とも違う。悟っているとも違う。12才にして、男女の関係で不幸にも起こるだろうことを理解しているというかなんというか。自分の人生は誰かに依存するのではなく、自立して生きていく覚悟が出来ている、そんな感じ。それをこの子役は背伸びしているのではなく、自然体で演じていた。すごい。
 ジェイスンもジョージーを娘とか子供として接するのではなく、一人の人格として相対している感じが伝わって来た。ジェイスンを演じていた俳優も印象に残った。

 失敗はしたくないけど、誰もが多かれ少なかれ失敗を味わう。逃げ出したくなることもある。立派な人は踏みとどまるんだろうけど、そんな人ばかりじゃない。大切なのは、失敗しても逃げ出したとしても、やり直す機会があれば、恥を忍んで戻って来ることじゃないか。
 ジョージーもジェイスンも立派だったけど、やり直す機会を作ったジョージーの亡き母であり、ジェイスンの亡き妻が、この作品の影のヒーローだったと思う。

 「いつかの君にもわかること」を観た時に感じたもの似ている。かなり難しい社会的なテーマを扱っていながら、最近多くの作品で感じる監督の主観の押し付けがましさがないことを、好ましく感じた。
 たぶん日本では映画館で公開されてないこの小品を、数ある作品の中から選んで機内で観せることにしたANAの担当者にも興味が湧いた。
マティス

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