『#夜明けのすべて』（2024／日）
劇場にて。原作未読。主人公の二人と、周りの人々のささやかな気遣いを描くだけなのに、こんなにも深い満足感がある映画になるものなのか。考えているし分かっている。でもそれは口にしないという優しさ。それを言外で伝えてくる年間ベスト級の大傑作。
感想。相手のことを100％理解することはできない。でも考えることは出来る。云ってしまえばこれだけの話だし、登場人物たちが英雄的に利他的な行動をとるわけでもない。手が届く範囲で親切なくらいの優しさ。しかしそこに身を置いている主人公たちの、ささやかな変化がとにかく心地よい。
でも退屈な話ではなくて。主人公二人が急変するかも、特に藤沢さん（上白石萌音）の表情を追ってしまう形で作品の緊張感が保たれているし、差し入れやガード下、営業車などの連続性のあるエピソードの可笑しみと織り込み方が秀逸で、物語に引き込まれてしまう。
また悪い意味での「映画っぽさ」で物語を引っ張らない作品でもある。藤沢さんと大島さんが出会う場面、二人とも彼との関係性をあえて話題にのせず、自己紹介と用事の件だけで会話する。この場面の、口にしない優しさと距離感の置き方が、この作品らしさであり普通っぽさ。
この映画は、登場人物の日常を描くだけで「映画の云いたい事」を最後まで云わない。でもあのエンドロールに監督の云いたい事が込められていると思うし、少し踏み込めば藤沢さんが社長さんに云った最後の言葉がとても関係していると思った。感想オシマイ。
ちょっと追記。松村北斗さんは『キリエのうた』と『夜明けのすべて』で、重要な役で担い、印象的な演技を見せて傑作映画二本ともに自らの代表作にしたと思う。俳優としての存在感も俄然増した感じ。本業のアイドルも忙しいだろうけど、これからも良い映画で俳優を続けてほしい。追記もオシマイ。
