ドント

犬人間のドントのレビュー・感想・評価

犬人間(2022年製作の映画)
3.6
 2022年。マッチングアプリで知り合ったハイスペイケメンのお屋敷に行ったら、どう見ても人間の犬(モフモフタイツにゴムマスク)がいる。イケメンは「複雑な事情があって……こいつは『犬』として暮らしてるんだ……どうか犬として可愛がってやってほしい……」と言うのだが、なんだかその犬というか人間の様子がおかしく……
「人間が犬として飼われてるんですけど?」という、ワン・アイデア(犬だけに)のネタを、ものすごく丁寧に描いた真面目な映画であった。こういうのは一瞬でもチョケたりメタに走ると途端に白けた、つまらない代物に転落するのだが、主人公とイケメンの出会いから「いや、人じゃん……?」という居心地の悪さ、事情説明によってイケメンより犬(人)が何だか怪しく見えて来さえする流れなど、一寸たりとも斜に構えることなしに異物のあるドラマ映画として作っており、非常に好感を持った。
 さらに嬉しいのは本作、説明をしない。背景を描かない。回想もわかりやすいアイテムもない。匂わせる代物が嫌味のない程度に置かれているだけである。それらも深く関係があるのかどうかわからない。いま起きている事象だけを語ることに徹底していて、いい具合の余白が生じていると同時に、ランタイム80分を切ることにも成功している。ワンダフル……
 序盤の、こっちから観ると面白味のないデートシーンも含めて、慎重に、独特の雰囲気と緊張感を壊さぬように積み上げられているのがわかる。ただ、もうほんの少しだけ旨味があるともっとありがたかったかもしれない。バカみてぇなアイデア(暴言)を真摯にやって、ちょっとした美術品のようにまで見せてくれるナイスな映画だった。映画のワンダーがありますね。犬だけに……
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