なべ

ヘル・レイザー 4Kデジタルリマスター版のなべのレビュー・感想・評価

3.3
 「ヘル・レイザーっておもしろい?」と、いつもの友人からメールが来た。
 「うーん、ジャッジが難しい。アイデアだけで最後まで突っ走ってしまった雑な映画だけど、観たことないなら観てもいいかも」と曖昧な返事をした。「興味がないなら一人で観に行くね」と言われて、厨二とはまた違う独特なカルト感を思い出し、「やっぱ行く」と返事をした。
 当初はそれほど乗り気じゃなかったのに、上映日が近づくにつれ、スクリーンであの四魔導士に会うのは初めてだと、ワクワクしてる自分に気づいた。
 なーんも知らない平成生まれの友人には「究極の快楽を求める男が、パズルボックスで苦痛=快楽を与える魔導士を呼び出してしまう話」と簡単に説明はしたが、あまりのつまらなさに怒るかもしれないと不安になってきて、「ホラー好きなら教養として見とけ」と予防線を張ってしまった。ふっ、意気地なしだと笑うがいいさ。
 ああ、何十年ぶりだろう。VHSのレンタルビデオでしか観たことない低画質のヘルレイザーがこんなに美しいなんて。肉塊と化したフランクの照りがこんなに瑞々しいなんて。
 もうね、セノバイト(魔導士)が最初と最後しか出てこなくて、こんなゲスト出演みたいな感じだったかと、自分の記憶違いに驚いたわ。もっと出倒してるイメージだったから。
 じゃあ、おもしろくなかったのかというと、これが意外にもよかった。魔導士の話ではなく、ホラー構文で語られるフランクとジュリアの倒錯恋愛ものとして大いに楽しめたのだ。
 弟の結婚式直前に新婦を手籠にするようなクズ男フランク。好き放題に生きてるのに満たされなくて、さらなる官能を追い求めてるうちにルマルシャンの箱に辿り着いちゃうのね。
 ルマルシャンの箱とは、究極の快楽を得られるというパズルボックス。箱を変形させたフランクは四魔導士から究極の快楽=苦痛を与えられ、消失してしまう。
 数年後、ラリーとジュリアは実家に越してくるのだが、この家の2階こそフランクが肉体を失った場所。引越しのさなか、怪我をしたラリーがうっかり床に血を滴らせたのをきっかけにフランクは目覚める。
 血を求める肉塊のフランクに脅され、欲惚けした男を次々と連れ込むジュリア。人体模型みたいなフランクの頼みなど突っぱねればいいものを、かつての交わりが忘れられず、魔導士を出し抜く野望に手を貸すのね。健気な毒婦ってどうよ⁉︎
 ボクシング中継を見て、「(化け物に脅されて間男を殺してる自分に比べたら)こんなの全然大したことないわ」とうそぶくジュリアがいい。諦念がある種の気だるさになっててかなりエロいんだわ。最初、ただの意地悪顔のおばさんだったのが、どんどんきれいに見えてくるんだから大したもんよ。後半にはシャーロット・ランプリングのような妖しさを醸してたからね。さすがクレア・ヒギンズ!
 四魔導士ではなく、この罪深い2人の凶悪な純愛の話なんだと認識を改めたところで、実在したレイ&マーサの連続殺人事件を思い出した。地獄愛やハネムーンキラーで映画化されたから知ってる人も多いだろうけど、カップルのシリアルキラーは互いにマッチポンプの役割を果たし、より深刻な事態を巻き起こす。フランクとジュリアもまさにそんなノリで、カップルキラーの本領を発揮。
 ここにラリーの娘カースティが絡んできて、図らずも魔導士たちを呼び出してしまいって流れ。
 次のデートのときにはノーパン&スカートで来ること、とせいぜいその程度のサディズムしか持ち合わせてないぼくには、魔導士たちのいう究極の官能などわかるはずもなく(なんとなく概念的にはわかるけど)、なんなら、“話が違う”と訴えるフランクの気持ちの方がよくわかる。
 さらにいうなら、百の肉片にちぎり倒しておきながら、おっぱいは絶対出さないって監督のアンバランスな倫理観も釈然としなかった。このトーン、この流れならいるでしょ、おっぱい!と思った人、いるよね?
 ただまあ、ブラッディな描写の割に程よい品があり、味付けもあっさり薄味だったので、思いのほか観やすかった。
 うん、観てよかったよ。
なべ

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