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窓ぎわのトットちゃんのtubameのレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.9
映画を観てここまで泣いたのは初めてなんじゃないかと思う。誇張ではなく7~8割は泣いてた。
観て良かったと心底思うし何とかして多くの人に観て貰いたいと思うばかり。


本作は黒柳徹子の自伝的ベストセラーを映画化したもの。自分は未読だが何故今になって?と思ったし、映画館で予告を何度観ても児童向けのほのぼの作品かな~程度に思えず惹かれなかった。しかし観賞後の今となっては今年のベスト作品と思っているし、今こそ観るべき映画だと思わずにいられない。
あまりにも繊細で質の高いアニメーション、瑞々しく真っ直ぐな子供の感性を通じて紡がれる反戦への祈り。何もかもが素晴らしいのだ。


落ち着きのない子供として小学校を退学になったトットちゃんが入学した自由な校風のトモエ学園。新しい居場所を得たトットちゃんが水を得た魚のようにのびのびと成長していく様は爽やかだ。学園には時間割がなく、いついかなる時でも徹底的に個々を尊重しており、戦前にこんな先進的な学校があったなんて!と驚くばかり。
彼女を取り巻く子供たちも実に生き生きと描かれており、とりわけ大の仲良しとなる泰明ちゃんとの交流は本作の軸になっている。
小児麻痺で手足が不自由なため何に対しても諦めの気持ちを抱いてきた泰明ちゃんが、トットちゃんの力強い生命力と前向きな心に触れ、壁を乗り越えていく姿は感動的で胸を打たれた。
ポスタービジュアルにもなっている木登りがやはり印象的で、子供二人だけの危なっかしい秘密の挑戦に色んな意味でハラハラしながら観ていた。
どう考えても大人が書いたとしか思えない台詞を言ったりする子供キャラを観るとよく冷めてしまいがちなのだが、本作は全編に渡って子供が喋っている!動いている!と思えるリアルな感じがあり、余計に没入感があったのかも。
シャツの汚れから人知れず息子の成長を知って涙する泰明ちゃんのお母さんを観て、彼が生まれてからの出来事を想像してこちらも泣いてしまった。



本作が一つのアニメーション作品としても素晴らしいことは最初に述べたが、トットちゃんたちの内面を様々な質感の描写で実に豊かに表現している。
初めてトモエ学園に来たトットちゃんの胸の高鳴りを絵本のような色調で表現したパートはこちらもワクワクしてくるし(黒柳徹子の好きなパンダが顔を覗かせるのが微笑ましい)、泰明ちゃんの精神的解放を描いたプールのパートでは原作のいわさきちひろさんの挿し絵がオマージュされているようだ。


子供が主役の作品ながら、取り巻く大人たちもとても良くて、海のような広い心の中に熱い教育者魂を感じる校長先生や、トットちゃんの両親の深い愛情にもジーンとした(本作は多くの登場人物に俳優が声を充てているが、皆本職に迫る魅力がある)。


愛に包まれたトットちゃんの楽しい日々はじわじわと戦争に蝕まれていく。劇的なシーンがあるわけではなく、いつも買えたキャラメルが買えなくなったり毎日話していた駅員さんが突然女性に変わっているなど、世情を知らない子供目線で徐々に日常の変化が紡がれていく。これは実際に戦争を体験した黒柳徹子原作であればこそで、戦争に日常が侵食されていく怖さをこうも生々しく感じられる高密度の映画が現代に作られたのはもう奇跡なんじゃないかとさえ思う。


終盤トットちゃんに訪れるお別れは、原作を読んでいないためショックを受けてしまい、しばらく大きな喪失感に包まれた。あんなにも映画の登場人物と気持ちがシンクロすることもそうはない...。
悲しみを抱えたトットちゃんが疾走し市井の人々が順々に映っていく一連のシーンは、いつの間にか戦争が人々の生活とがっちり結び付いてしまっていることを見せつけられる悲しい名場面。
子供故に見えていなかった世界を知り、大人になっていくトットちゃんの未来を暗示するこのシーンは残酷だけど、誰しもが通ってきた道でもある。世間を知らないことで守られ、根拠のない万能感に包まれた幸福な子供時代は終わりを告げる...。


そうして道理を知りお姉さんになってしまったトットちゃんの姿は頼りがいがありつつ、やっぱり少し寂しかった。物語も暗い世の中を映したまま幕を閉じていく。ああトットちゃんどうなってしまうの............
そうだ!これは黒柳徹子の物語だった!トットちゃんはこの後生き抜いて私たちの前に元気な姿を現してくれるのだ。自伝であるということが、ちょっと落ち込んだ観賞後の気持ちを救ってくれる有り難さ。そういう意味では戦争モノだけど安心して観れる作品と言えるだろう。


なんだか纏まりのない文章になってしまったが、とにかく今一番観て欲しいと思う作品!!
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