銀色のファクシミリ

ミッシングの銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.3
『#ミッシング』(2024/日)
劇場にて。幼い娘が失踪した母親の物語。最初から最後まで薄氷の上にいるような緊張しっぱなしの119分。悪夢のような物語だけど、登場する人はみな普通の人。だからこそ描ける当事者と他人の距離。この映画は日常にある「他人事」を描いている作品だと思う。

感想。自責の念とSNSでの中傷で、内側と外側から精神を痛めつけられる毎日。それでも失踪した娘を探し続ける終わりの見えない日々。「話題」としての新鮮さも減り、周囲の関心と興味も薄くなっていく。主人公・沙織里が時折口にする「熱意が違う」の苛立ちと失意が、おそらく現実でもこうなのだろうと、リアル過ぎて悲しい。

主人公と周囲の距離を主にするためだと思うけど、主人公の母親と弟以外に親族や夫婦の友人を名乗る人は一人も出てこない。血縁とか友情とかはノイズになるのだろう。この物語は、しょせんは他人事という悲しい現実と「これくらいしかできないけど」という人の善意、そんな他人事の表と裏の両面を、実はこの映画の最後の瞬間まで描いている。

また「他人事」にはテレビとSNSも含まれていて、実はこの二者は同類に並べられている。記者が「事実を伝えたい」とある人に訴えても「事実が〇〇だからだろ」と切り捨てられる。メディアに厳しいのは𠮷田監督作品の常だけど、視聴率至上主義の果てに業界ごと自沈している現状を映していると思えた。

主演の石原さとみは最高でしたね。自分はかつての主演作『包帯クラブをオールタイムベスト10に入れるくらい好きだけど、この作品への熱量は『包帯クラブ』を超えていると思う。どちらも辛さと苦しみを抱える等身大の人物。辛い物語でも観客を引きつけつづけるスター女優の力もスゴイし。感想オシマイ。