諸星だりあ

首の諸星だりあのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
3.7
気になっていたので鑑賞。
個人的には「龍三〜」以来の劇場での北野映画。

思った以上に真面目な戦国もの。映画でなければ観られない画に溢れていて、満足感はあった。西島秀俊さんの明智光秀がとにかく素晴らしかったという印象。クセの強い登場人物の中にいて精悍で実直な好漢、男色の描写に50代で説得力を持たせられるのは彼だけではなかろうか。相手役が遠藤憲一さんというのが、絵面が酷すぎて笑いを生んでいるのも妙技。

とにかく信長の下衆さ、それが天下人であるゆえ従わざるを得ない澱んだ空気感を作っており、その運命を辿る展開に「晴れていく」感覚があった。本当に、信長ほど多種多様に表現された歴史上の人物はいないと思う。
意外な展開、などはなく史実通りに進み「邪魔者」を消した秀吉がこの映画を締めるが、ラストシーンの悪趣味ぶりは映画館を出てから気付かされた…それほど「首」が当たり前に飛び交い扱われるシニカルな作品である。

北野映画は暴力の中にギャグが飛び込んでくるのが持ち味だが、今作笑いは控えめで、というより「笑いたかったら笑え」的に突き放してるように感じるほど、真っ当な時代劇だった。
誰もが知っている本能寺の変周りの話、だからこの映画はベテラン俳優陣の殺し合いを味わうものだと感じた。考えてみれば、非日常を楽しむのが映画の原点である。

西島光秀は良い男だったがキンカン頭だし、これだけのメンツがいて誰一人「格好良い男」がいないし、美女もいない。
本当に中年男が殺し合っているだけだったが、これも映画の醍醐味である。

「俺は明智が死んだかどうか判れば、首なんかどうでもいいんだよ!」
諸星だりあ

諸星だりあ