かじられる

キリエのうたのかじられるのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
3.8
たとえ口から出た言葉が喜びであれ、
慰めであれ、無音であれ、
人は叫びにならない叫びを
みな抱え込んでいて、
事情にならない事情を抱え込んでいて、
時空なんか交互に飛び出して、
それでも守りたかった思いや大切な人を、
時に歌として、時に聴衆として、
その表皮をなでるように、
撫でることしかできないけど、
できないからこそ、
お互いの痛みや背景に
そっと寄り添うことができるんだと思う。

冒頭からアイナが歌う度に
スクリーンに吸い込まれるようで、
わたし自身も、
もう触れることもできない、
名前さえ知らない、
居場所も忘れた単語帳のような記憶を
置き換え、慰撫された気がした。
泣けないどこかのわたしを
見つけられた気がした。

ただそれだけの今を、
確信すらない孤独を、
ずっと噛み締めていくんだと思う。

落ちてくる悲しみをなんとか抱えて、
憐れみの笑顔が咲いた時、
幸せはすぐ側にある。
かじられる

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