かじられる

終電車のかじられるのレビュー・感想・評価

終電車(1980年製作の映画)
3.7
自由って束縛だと思うんです。線引きされて、フィールドの形を認識しないと、与えられている空気さえ確保できない。

ナチスドイツが占領下のフランスで行った規制は、却って自由の素晴らしさ、美しさを知らしめてしまった。衣食住足りていれば、充分に暮らしていけるのに、文化や芸術を求めてしまう勇み足はなんだろう。美しい、と涙を流すのに飽き足らず、その扉の仕組みに手を伸ばすのはなぜだろう。時を超え、音もなく声もない、名もなき人々が文化を灯火のように紡いでいった奇跡は、著名な劇場はおろか、形を変えた支流として、今日この手に享受できる。書かれた戯曲が昔のものでも、再現された瞬間、それは今の喜びとして、わたしの人生に触れる。少しだけ永遠が体を走り抜ける閃光。

トリュフォーがカトリーヌ・ドヌーヴを愛でたように、わたしが愛でるものも、伝える言葉も、即座に潰える声でなく、誰かのかがり火であるかもしれない。地下室のように埋もれたこころを先導するのは、ほんのわずかな光だけで十分なんだ。

2019/7/21
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