ヴィム・ヴェンダース監督作品。大変良い映画を観ました。じんわりと温かい映画でした。本作はある男の生活を美しく淡々と切り取りながらも、それは同時に規律正しい勤労に捧げられていました。人を殺めない『Mr. ノーバディ』であり、『イコライザー』のマッコールさん。ある男の生活、そこには銃も巨悪も暴力もありません。強い刺激は不要。巨匠と名優の手に掛かれば、いかなる題材もここまでの光を放つようになるのかと驚きを禁じ得ません。否、そうではなく、この世界に放たれている光を捉え、掴み、新たな光として映写することこそが映画なのだと思い知らされもします。ありふれた日々を奇跡の映像に昇華することが、実はありふれた日々こそが奇跡であることを教えてくれる。マスターズオブライトに喝采を。映画という総合芸術の底知れなさと天井知らずの可能性に慄く一作でした。いやぁ、映画って本当に良いものですね。
余談ですが、ある瞬間、ほんの数秒間のことでしたが、ヒゲのせいでしょうか、役所広司がチャールズ・チャップリンに見える瞬間がありました。日々のまにまに、都会の谷間に、優しい渋みのある表情に現れる人生の深み。役所さんがカンヌで最優秀主演男優賞を受賞したのも頷けます。名演でした。
