愛鳥家ハチ

一人息子の愛鳥家ハチのレビュー・感想・評価

一人息子(1936年製作の映画)
4.2
神保町シアターの特別企画「生誕120年・没後60年記念 フィルムでよみがえる――白と黒の小津安二郎」にて鑑賞。あらすじは以下の抜粋のとおり。

「一人息子の立身出世を信じて身を削り働いてきた母は、東京で暮らす息子の本当の生活を知る。小津のトーキー劇映画第一作。飯田が複雑な母心を静かに演じて涙を誘う。」(※1)

1936年の作品であり、1世紀近い時を経ながらも今なお心に響くことに驚嘆します。郷里を離れて奮闘されている方々にとっては、特に刺さる内容なのではないでしょうか。1929年の世界恐慌に端を発する昭和恐慌の余波が残存する時代背景を前提とすると、主人公はじゅうぶん立派に頑張っているとは思うのですが、世情ゆえに弱気になってしまうところはわかる気がします。他方で全身全霊で働いてきた母の気持ちも痛いほど伝わってきますし、息子を叱咤激励することは母としては至極当然のことともいえます。こうした母と息子の気持ちのすれ違いが、ヒューマニズムを交点として相互理解に昇華することで、涙腺をじわりと刺激してくるのです。

余談ですが、韓国には「自分が希望する仕事が見つからないから、自営業を選」び、チキン屋を開業する高学歴な若者がいるとのことです(※2)。作中で背景事情は語られないものの、笠智衆がとんかつ屋を営んでいる姿に重なります。扱われている題材は、時代や国境を超えているのだなと思わされた次第です。

※1 https://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/program/ozu4_list.html#movie02
※2 https://toyokeizai.net/articles/-/325453?page=2
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